劇場公開日 2006年12月9日

王の男 : 映画評論・批評

2006年11月28日更新

2006年12月9日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー

「旅芸人の記録」「ルードウィヒ」にも匹敵する現代韓国映画の秀作

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韓流ブームが去って現われた重要な作品「グエムル~」や「トンマッコル~」の興行が芳しくないと聞くにつけ、見せる力が衰え、見る眼も落ちたこの国の映画環境にはほとほと絶望的になる。「王の男」もまた現代韓国だからこそ生まれ出た秀作だが、美しき男優が出る宮廷ものにして韓国未曾有のヒット作という文句だけが記憶されているとしたら心外だ。

主人公は粗野な男と女形の大道芸人コンビ。彼らは、史上最悪の暴君の統治下を生きる最下層の民でもある。度々登場する綱渡りの芸は、社会の枠組みから外れて権力を笑い飛ばす芸人の危うい生き様を象徴する。芸人にとって死と自由は背中合わせ。贅の限りを尽くす王と官僚、虐げられた民衆。その間を綱渡りし、痛烈な風刺で悪政を糾す存在こそが芸人なのだ。屈折した粗暴な王の生い立ちにも触れ、物語は善悪の構図に留まらない。

芸人一座の視点から政治を見つめるという意味で「旅芸人の記録」(※1)であり、暴君による退廃と彼の悲哀を映し出すという意味では「ルードウィヒ」(※2)にも匹敵する。いや、ここには連日テレビを占拠するお笑い芸人本来の姿と、頭を下げる映像をさらし続ける役人どもの腐敗が描かれていると言えよう。見終えれば心ある者は叫びたくなるはずだ。太田光よ、お上に勲章(※3)など返上し、ガチンコの言説ではなく笑いに昇華させて権力を糾弾せよ、と。

(※1)「旅芸人の記録」(1975年/テオ・アンゲロプロス監督)
(※2)「ルードウィヒ/神々の黄昏」(1972年/ルキノ・ビスコンティ監督)
(※3) 2006年3月、芸術選奨文部科学大臣賞放送部門を受賞

清水節

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