劇場公開日 2006年4月29日

「人生は 枯れてからこそ 咲くもんさ」ブロークン・フラワーズ 全竜さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5人生は 枯れてからこそ 咲くもんさ

2012年6月26日
フィーチャーフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

幸せ

主役はヤル気の無い人間を演らせたら世界一の名優ビル・マーレイ。

私は彼の冷めに冷め切ったオーラが大好きだ。

『ゴーストバスターズ』の頃から大ファンで、日本をナメた視点で描いた『ロスト・イン・トランスレーション』は、彼が演らなければ全く成立していない。

今作でも良い意味で“枯れ果てた演技”をしており、正に“ブロークン・フラワー”そのものである。

彼の最大の魅力は、あの眼だ。

ホントに人生を諦めている。

人間関係にウンザリしている人の眼は、相手を見下したり、見放したるのを通り越して虚無になる。

当初は感情を破棄した主人公の眼が、不条理な旅をキッカケに変わっていく。

訪ねる女性達には既にそれぞれ家庭があるから、
「オレの子を産んだかい??」
なんて聴けるワケが無い。

昔噺に花を咲かせながらも、いつ切り出そうかと戸惑っている眼が、いつの間にか輝きを取り戻している。

眼に感情が宿っているのだ。

その過程が物凄くウマく面白い。

気持ちが沈んだ人間に必要なお金や麻薬ではない。

人との出逢いだ。

お金やセックスはそれからでいい。

『バッファロー66』
『スタンドバイミー』
『アバウト・シュミット』
『菊次郎の夏』etc.
ロードムービーにオチが無いのは鉄則に近い。

無論、今作でも最後まで何一つ解決していない。

物足りないと云ってしまえばそれまでだが、全編に渡る気だるい雰囲気は大好きだ。

小気味良いギターサウンドが、なおさら物語をアンニュイにさせる。

人生に、力みなんて必要無いのだ。

ただ最初の訪問先であるシャロン・ストーンの娘が、いきなり“スッポンポン”で現れたのは、眼が点になったが…。

まあ、眠くなりかけた展開に大きな刺激を投下した爆弾スパイスとして、作品に非常に貢献しているのは紛れもない真実である。

では、最後に短歌を一首

『枯れた花 水の代わりは 愛だろ愛 春が来るのは それからだろう』
by全竜

全竜