劇場公開日 2002年11月16日

ウェイキング・ライフ : 特集

2002年11月13日更新

トリップ・ムービーいろいろ

星野一樹

サイケデリック・ドラッグと一言にいっても、本人の心理状態、環境、そしてトリップに対するイメージによって、抜けられない無間地獄をもたらすものにもなるし、ネバーランドにいざなってくれるティンカーベルにもなりうる。要はドラクエの呪文「パルプンテ」のようなものなのだ。最高にバッドな世界から、ファンタジーまで。アシッドやマリファナいらずでサイコアクティブにさせてくれるトリップ・ムービーを紹介しよう。

「ジェイコブス・ラダー」 パイオニアLDC/4700円(税別)
「ジェイコブス・ラダー」 パイオニアLDC/4700円(税別)

まず、トリップ・ムービー界の巨人のひとつが、フランシス・コッポラ製作総指揮「コヤニスカッティ」だろう。「コヤニスカッティ」とはホピ族の言葉で、「平衡を失った世界」という意味。フィリップ・グラスのミニマルミュージックと映像のみで構成された、自然と文明を描く一本だ。20年たった今観てもなんのためらいもなく画面の中に僕らを吸い込んでくれる。「2001年宇宙の旅」と、ヒトの細胞から宇宙の果てまでを旅するイームズ夫妻の実験作「パワーズ・オブ・テン」そして「コヤニスカッティ」は、現在の映像作家やVJにとっての“モノリス”だったと言っても過言ではないだろう。これらの作品で、感覚に訴えるビジュアルエフェクトの手法は新たなフェーズに踏み出したのである。チェックすべし。

LSD研究の第一人者ジョン・リリーをモデルにした「アルタード・ステーツ」、60年代カウンターカルチャーのマスターピース「イージーライダー」も忘れちゃいけないアイテム。

「フィリップ・グラス/ コヤネスカッティ <完全盤>」 ワーナーミュージック・ジャパン 3500円(税別)
「フィリップ・グラス/ コヤネスカッティ <完全盤>」 ワーナーミュージック・ジャパン 3500円(税別)

ここ何年かのブリリアント・グリーンの中でも記憶に新しいのは、70年代ニュージャーナリズムのヒーロー、ハンター・トンプソンが原作のロードムービー「ラスベガスをやっつけろ」だ。サイケドラッグをガンガン投入しながらの珍道中は、テリー・ギリアムのビジュアルとあいまって痛快無比! カップルでは絶対に見たくない、最低にして最高なトリップ・ムービーだ。

また、たたみかけるような映像と音楽のがテクノ的だった「ムーラン・ルージュ」も素晴らしかったし、「ザ・セル」でジェニファー・ロペスがサイコダイブした猟奇殺人者スターガーの脳内世界も素晴らしく官能的だった。

「ラスベガスをやっつけろ」
「ラスベガスをやっつけろ」

デビッド・クローネンバーグ、彼の作品の中でも、ビジュアル面で最もスゴイのは「裸のランチ」だろう。ウィリアム・バロウズの小説を映像化したこの作品は、もうクローネンバーグのやりたい放題。もう誰にも止められない。バロウズの毒をやはり毒をもって制したといったところか。クローネンバーグといえば「ビデオドローム」も忘れてはならない。ビデオドラッグ「ビデオドローム」によって現実と妄想が曖昧になり、見るものも巻き込んで転がっていくそのストーリーは、アシッド・バッドの体験に近いともいえる、のかもしれない。

「裸のランチ」 アスミック/4700円(税別)
「裸のランチ」 アスミック/4700円(税別)

バッドさでは「ジェイコブス・ラダー」も負けてはいない。フランシス・ベイコンからの全体のビジュアルイメージは、“胡蝶の夢”的ストーリーとともにバッド・トリップにいざなってくれるだろう。そして、モノクロの画像とテクノミュージックがスタイリッシュな「π」は、世界の存在の全てを解析できるという考えに取りつかれている数学者の話。エイフェックス・ツィン、ユダヤ密教、円周率……と、その要素を並べるだけでかなりユーザーを選びそうだ。

トリップ・ムービーを語る際に、避けて通れないのがディズニーアニメだろう。ディズニーのアニメーターの60%がサイケトリップ経験者だとか、「ダンボ」はウォルト・ディズニーのアシッド・トリップ中に生まれた、とかディズニーとサイケの噂はゴマンとある。たしかに「ダンボ」の名シーン“ピンクの象”や「ふしぎの国のアリス」のお茶会など尋常じゃないシーンは数知れない。が、この話題は、格闘技とステロイドの話と同じぐらいややこしいものなのであんまり突っ込むのはやめておこう。

「ザ・セル」
「ザ・セル」

まあ、つくる側はどうあれ、ユーザー側にすればディズニーアニメ、特に「ファンタジア」は最高の一品なのである。踊る妖精やキノコ、どこまでも落ちていく感覚、普通の社会人になるには忘れていかなくちゃいけないファンタジーがここには詰まっている。狂気とファンタジーは紙一重だと再認識させられる、アニメの最高峰だ。また、「ふしぎの国のアリス」は止めどもない妄想が妄想を呼び、ともすればそれにからみとられてしまい、∞ループに陥るマッシュルーム体験に近い、のかもしれない。ちなみにキノコを食べて巨大化するシーンもまんま出てくるし。関係ないけど、白雪姫の七人の小人の一番後の“おとぼけ”はDopyという名前でした。

でもやっぱり、映画でトリップするには大画面が一番。今は亡き新宿高島屋のアイマックスシアターの大スクリーン(ビル6階分という触れ込みだったが、たぶん3階分ぐらい)で観た「ファンタジア2000」はスゴかった。スクリーンの大きさとインパクトに脳が情報を処理しきれなかったらしく、しばらくは頭痛が治まらなかった記憶がある。できれば「ウェイキング・ライフ」もアイマックスシアターの画面で観たかった。もちろんバファリン持参で。

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