劇場公開日 2022年9月16日

  • 予告編を見る

ロード・オブ・ザ・リング : 特集

2002年2月4日更新

A Young Person's Guide to LOTR
第1回「旅の仲間」:トールキンのココだけは押さえる!

編集部

2-1.いまさら人に聞けない「原作のスゴさ」って?

映画「ロード・オブ・ザ・リング」の原作「指輪物語」が名作であることは、世界中の共通認識。しかし、それがあまりにアタリマエなので、なぜすごいのかは改めて問われることがなく、人に聞くのも気がひける。そこで、「指輪物語」初心者に向けて、いまさら聞けない原作のすごさをちょっとおさらいしてみよう。

ただし、「指輪物語」についてはすでに膨大な研究書があり、その評価ポイントもさまざま。なので今回は、基礎知識的なものを駆け足で紹介するのにとどまる。さらに詳しく知りたい人は自分でハマってみよう。奥の深~い作品なのだから。

【基礎知識その1】
「指輪物語」は世界初の緻密な歴史・地理体系を持つファンタジーだ

画像1

「指輪物語」の背景には緻密かつ膨大な歴史と地理が設定されている。今でこそ、ちょっと気の利いたファンタジーにはこれらの設定があるのがアタリマエだが、本作が発表された当時、1954年には、そんなファンタジーはなかった。というのも、ファンタジーは子供のためのものと思われていたからだ。この「世界観の詳細な設定」は、以後のファンタジーのお約束となったと言える。

まず、歴史。これはトールキンの他の著作「ホビットの冒険」や「シルマリルの物語」なども含めて断片的に触れられているのだが、これらの物語の背景には、世界の創造から始まる3万7000年以上の歴史が設定されている。そのうえで、登場する部族(ホビット、エルフ、ドワーフ、人間など)のそれぞれに「指輪物語」から3000年余も遡る歴史が設定されているのだ。この歴史のなかでは、「指輪物語」のドラマが起こるのは、ゴンドールの暦年(部族によって年の数え方は異なるという芸の細かさ)で3018年。さらに登場人物の家系もそれぞれに詳細な設定があり、研究書には家系図が掲載されているほど。

そして地理。原作には物語の舞台の詳細な地図がついている。これは「指輪物語」に合わせ、時代的には太陽の第3紀、舞台は「中つ国」の地図になっている。しかし、地理の設定はこれだけにとどまらない。前述のような壮大な歴史の設定に合わせて、それぞれの時代の世界の形が設定されているのだ。

【基礎知識その2】
「指輪物語」は実際の神話・伝説・民俗をふまえている

作者トールキンは、学生時代はオックスフォード大学で比較言語学を学び、後に同大のアングロ・サクソン語の教授となった人物。古代の言語と神話学は若い頃からの彼の興味の対象で「指輪物語」には、それらへの造詣が充ち溢れている。そもそも神話とは、歴史を読み直したもの。「指輪物語」は古代の英国の歴史を踏まえていると見ることもできる。

ちなみに、国家として成立する以前の英国史をざっとおさらいすると、紀元前7世紀頃から住んでいたケルト民族系ブリトン族が、ローマ帝国に支配され、5世紀頃にはゲルマン民族系のアングロ・サクソン族がやって来て、さらにフランス系ノルマン族が来襲したといったもの。

「指輪物語」は、このそれぞれの民族の神話・伝説が踏まえられている。ケルト系ブリトン族のアーサー王伝説、ローマ帝国のシャルルマーニュ大帝の伝説、ゲルマン系の源流にある北欧神話の「ヴォルスンス・サガ」や「エッダ」、サクソン系の英雄である鍛冶のウェイランド伝説の変奏的なものが随所に登場する。

こうした各民族文化の引用が意図的なものだったことは、物語中の部族の用語にあきらかだ。言語学に詳しいトールキンは、それぞれの部族の固有名詞に、実在した言語をあてはめている。エルフ用語はケルト語系が多く、彼らの日常語シンダール語はウェールズ語系、古語クウェンヤ語はフィンランド語系、人間用語はアングロ・サクソン語系古英語、ドワーフ用語はアイルランド語という具合だ。

また、地理的な設定も現実を踏まえているという見方もできる。中つ国の北西部は、ほぼヨーロッパ大陸に相当すると考えると、ホビット村は、トールキンが住んでいたオックスフォードと大体同緯度になり、アラゴルンの国ゴンドールは神聖ローマ帝国のあったイタリアにあたるのだ。

それで「指輪物語」は、ヨーロッパの神話や歴史についての知識のある読者にとっては、元ネタ探しの楽しみにはこと欠かない。アニメ版「メトロポリス」を観て「AKIRA」や「ブレードランナー」「パトレイバー」の引用振りを楽しむのとも似ているが、それが実際の文化史と連動している点でより重層的な楽しみ方が可能なのだ。

関連ニュース

関連ニュースをもっと読む

映画評論

「ロード・オブ・ザ・リング」の作品トップへ