劇場公開日 2006年6月17日

キングス&クイーン : インタビュー

2006年6月20日更新

エマニュエル・ドゥボス インタビュー
「アルノーの映画に出ることは心の奥底にあるものと向き合うことなの」

(聞き手:木村満里子)

エマニュエル・ドゥボス Photo by Mariko Kimura
エマニュエル・ドゥボス Photo by Mariko Kimura

フランスの女優は年齢を重ねると貫録が出てくるものだが、エマニュエル・ドゥボスは40代になっても軽やかさを持ち続けている数少ない女優である。加えて「リード・マイ・リップス」では演技に更に深みが出、「アメリ」のオドレイ・トトゥを抑えてセザール賞主演女優賞を獲得、第一線に躍り出た感がある。

「セザール賞の受賞以降、主演作も多くなったし、私の個性を引き出してくれる企画も多くなった。それで注目を浴びているから、活躍しているように見えるだけじゃないかしら(笑)。私よりも周囲の状況が変わったという感じね。『リード~』で何か発見したわけでも、私生活で転機があったわけでもない。デビュー以来1作ごとに少しずつ進歩してきた結果だと思うわ」

その地道な努力が時を経て成熟し始めた時、キャリア初期から組んできたデプレシャンの作品で初主演を果たすことになる。どれほど売れっ子になっても、彼女の特質である震える繊細さを一番奥深いところから引き出せるのは、やはりデプレシャンだということを、「キングス&クイーン」は証明している。

「アルノーとは一緒に成長しているような、特殊な関係ね。彼はまるでマジシャンみたい。どうやっているのかわからないけれど、俳優を映画の中に引き込む力があるのよ。だから俳優にとっては、演技をしているのだけれど、その映画を通して普通の撮影では感じられないような特別な体験をしている感覚があるの。演技をしているような感じがしないというか、自分と関係ないものを演じている気がしない。でもだからこそ彼の映画に出てくるキャラクターを演じるのは、ものすごくつらいことでもあるのよ。自分自身の心の底にあるものと向き合わなければならないから」

再婚、息子の世話 そして父親の看病と、大忙しのノラ
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ドゥボスは決して美人ではないのにセクシーな美女から地味なOL、母親役まで何でもこなす。では器用な演技派かといえば、どんな役をやってもエマニュエル・ドゥボスそのまま。少女っぽい声で甘えた喋り方をし、クセも動きも変わらない。にも関わらず、役柄そのものとして映画の中に生きている。一体演技というものをどう捉えているのだろうか。

「ある演出家が“なぜ俳優が演技をしたいのかといえば、それは自分を知りたいからだ”と言っていたわ。私は12歳位のとき鏡をじっと見るのが好きだったのだけれど、それは自分の体の部分を見たいとかじゃないの。鏡に映る瞳の奥を見つめていると、自分がそこにいるという感覚がなくなって映っている姿と自分が同化し、そこから消えていくような不思議な感覚があったからなのよ。これが私が女優になりたいと思った原体験だと思う。俳優になりたいとか、演技をしたいと思うのは、直感のようなもの。生まれたときにそういった直感がなかったら、たぶん一生ないと思うわ。それは明らかね」

おっとりした態度の裏にある知性にまず驚き、次に目ヂカラに引き込まれ、どんどんと彼女が美しく見えてくる。そしてその源である豊かなものを、もっともっと覗き込みたくなる。作家性の高い監督たちが彼女を使いたがる訳は、きっとここにあるのでは。

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