華やかなアメリカ・ショービズ界の裏側にある退廃的な闇の世界を描いたルパート・ホルムズのミステリ小説を、「スウィート・ヒアアフター」「アララトの聖母」で知られるカナダの鬼才アトム・エゴヤン監督が映画化した「秘密のかけら」。日本公開を前に、PRのために来日した監督に話を聞いた。(聞き手:編集部)
アトム・エゴヤン監督インタビュー
「ハリウッドというところは、人工的なリアリティに基づいた複雑な街なんだ」
アトム・エゴヤン監督トルコによるアルメニア人虐殺を描いた前作「アララトの聖母」は、自らの出自(監督はアルメニア出身)に関わる大作だったエゴヤン監督。
「『アララトの聖母』は私にとって非常に重い題材だったけど、いつかは作らなければならない作品だった。そして、今はこの映画を製作した責任上、ずっとこの作品について語り続けなくてはいけない責任を感じているよ。私個人としては、私の作った映画の中で最も優れた作品とは言えないにしろ、最も重要な作品といってもいいんじゃないかな」
ライフワークを完成させて、人生に区切りをつけた監督は、ルパート・ホルムズのミステリ小説「Where the Truth Lies」を手に取る。
「『アララトの聖母』を作った後は、180度方向性が違う、我を忘れてしまうような題材の作品を撮らなくてはというオブセッションに取り憑かれたんだ。私の映画は7割方、自分の身の回りの環境に近い物語を描いたものなんだが、『秘密のかけら』は後の3割に属するんだ。この『秘密のかけら』では、私個人としては、あまり縁のなかったハリウッドの夢<ドリーム>を描いたんだけど、同じドリームでもその裏には必ず悪夢というものが潜んでいる。私はどちらかというと、その悪夢の方に惹かれるんだ(笑)。ハリウッドという退廃的な場所は、太陽に近づきすぎると、羽根が溶けて墜落してしまうという神話を思い起こさせるんだよね」
ハリウッドの裏の顔が描かれる「秘密のかけら」それでも、人はハリウッドという夢の大量製造工場に魅了される。
「ベニスビーチ、ハリウッド・ヒルズ、ユニバーサル・スタジオあたりは何度も繰り返し、映画の舞台として使われてきたから、それを題材に映画を作るということは、絶望に立ち向かわなくてはいけないということなんだ。そのような表面的な世界とわかっていながら、私たちはハリウッドに魅了され続けている矛盾がある。やはり認めざるを得ないのは、その吸引力の凄さ。あの吸引力は、私たちが常日頃から持っている逃避願望からくるのかな?」
ユニバーサル・スタジオの空っぽのバックロット、「マルホランド・ドライブ」にも出てきたハリウッド・ヒルズの高台の家が舞台設定として象徴的に使われていた。
撮影中の監督「ハリウッドというところは人工的に作り上げられたリアリティを基に出来ていて、それがあの街をより複雑にしているんだと思う。今までに何千もの映画が作られてきたユニバーサル・スタジオのバックロットで、この映画は帰結を迎えるんだけど、この舞台設定は観客に『これはリアルなのか?』という疑いを持たせるんだ。というのも、この舞台設定も映画のストーリー自体もすべては人工的に作られた作り物なんだよ。あのシーンでは『リアル』と『リアルでないもの』という2つの構造が拮抗するような作りになっているんだ。あと、この映画のキャラクターはそれぞれに矛盾を抱えていて、コリン・ファースが演じたビンスは、あのガラス張りの高台の家にひとり孤独に住んでいるけど、実は自分をひけらかしたいという思いがあるからこそ、ああいうところに住んでいるんだと思う。この映画の中で私が描こうとした心理劇はハリウッドの構造を象徴するように作り上げていったんだ」
実は今回初めて、ハリウッドで撮影したというエゴヤン監督。
「ハリウッドを舞台にするということは、ファンタジーの中のハリウッドを再現しなくてはいけないと思っていたんだ。私としては、とにかくすべてが人工的で完璧にファンタジーの世界、自意識過剰なくらいに完璧な世界を目指したんだけど、実際ベニスビーチで撮影したときは、天気が悪くて、ガッカリだったよ(笑)」


