エデンより彼方に インタビュー: トッド・ヘインズ監督インタビュー

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エデンより彼方に

劇場公開日 2003年7月12日
2003年7月4日更新

アカデミー主演女優賞、脚本賞、撮影賞、作曲賞の4部門にノミネート。さらにインディペンデント・スピリット賞では、作品賞、主演女優賞、助演男優賞、撮影賞、監督賞の5部門を独占するという快挙を成し遂げた本作。メロドラマの巨匠ダグラス・ サーク監督作「天はすべて許し給う」を完璧に再現すべく、美術、音楽、衣装とディテールにこだわりまくった本作への思い入れを、トッド・ヘインズ監督に聞いた。

トッド・ヘインズ監督インタビュー

町山智浩

トッド・ヘインズ監督 トッド・ヘインズ監督

「僕は『エデンより彼方に』をダグラス・サーク監督を好きな人だけのために作った。それ以外の人に観てもらえるなんて思ってもみなかったんだ」

オレゴン州ポートランド、コットンウッドの綿毛が雪のように舞い散る美しい川のほとりでトッド・ヘインズに会った。彼はこの町に別荘を持っているのだ。

「『エデンより彼方に』はダグラス・サークのメロドラマ、なかでも『天はすべて許し給う』(55)を元にしている。冒頭の秋の風景やいくつかのシーンは構図から何から完璧に再現してみせた」

「エデン~」の舞台は50年代の東部。幸福な結婚生活を送っていた主婦が知的な黒人の庭師(デニス・ヘイズバート)に惹かれていくが、保守的な当時の世間は2人の愛を許さない。

基になった「天はすべて許し給う」は、裕福な未亡人と庭師の身分違いの愛を描いている。そんなメロドラマを、ダグラス・サークは50年代に量産した。昼メロ的素材をスタイリッシュな演出と画面構成で芸術の域にまで高めたサークには今もファンが多い。へインズはそこに、ヒロインの夫(デニス・クエイド)がホモだったという現代的ツイストを加えた。

「デニス・クエイド演じる自己中心的なホモの夫は、サークの『風と共に散る』(56)でロック・ハドソンが演じたエゴイストの男と、私生活ではゲイだったロック・ハドソンをヒントにしたキャラクターだ」

でも、61年生まれのヘインズはサークをリアルタイムでは観ていない。

「僕がサークを知ったのは大学時代だ。僕はゲイについて学びたかったけど、当時はまだ学問として確立されていなかったのでフェミニズムを専攻した。女性もゲイと同じで差別されているジェンダーだからね。そこで、女性が専業主婦として家庭に縛られていた50年代に興味を持ったんだ」

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ヘインズが「天はすべて許したまう」を初めて観たのも大学の教室だった。ドイツの映画監督ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーの授業で、ファスビンダーの「不安と魂」(74)の「元ネタ」として教室で上映されたのだ。「不安と魂」は「天はすべて~」を老婦人とアラブ系労働者の恋に置き換えて厳しくリアルに描いている。

「ファスビンダーが活躍した70年代は、セックスや人種問題、暴力についての映画が世界的に解放されていた。でも、彼はあえて表現が抑制されていた50年代のサークのスタイルを選んだ。サークの映画では現在の映画のように“I love you”と言ってメイクラブしたりしない。誰も本当の気持ちは表に出さない。当時の社会がそうだったんだ。でも、口に出さない分、その痛みはより強く観客に伝わる。何でもはっきり言えばいいってもんじゃない。たとえば僕は『エデン~』の中で一回しかFuckという言葉を使わなかった。だからショッキングだろ? 今の映画ではやたらFuckと叫ぶけど何のインパクトもない」

ファスビンダーはゲイだった。同じくゲイのジョン・ウォーターズ監督も「天はすべて~」を基にして「ポリエステル」(81)を作っているが、そちらは完全にコメディだ。

「僕の『エデン~』は両方だな。『スーパースター』と同じさ」

ヘインズが82年に自主製作した「スーパースター」(82)は、カーペンターズのカレン・カーペンターの生涯をバービー人形を使って描いた短編。見た目は爆笑ものだが、拒食症というテーマと真摯に取り組んでいる。

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「『エデン~』は僕よりも若い観客でサークを知っている人には一種のパロディとして笑える。あ、そっくりだ! ってね。それにデニス・クエイドがゲイであることを告白して精神病院で“治療”を受けたりする場面も滑稽だ。でも、あれが50年代の感覚なんだよ。だから当時リアルタイムでサークを観ていたお年寄りは本当に懐かしい気持ちで楽しめるはずだ。どっちにしろサーク・ファンのために作った映画なんだ。だから、オスカーにノミネートされたりして広く受け入られたのは驚いたな」

もっと驚いたのは「めぐりあう時間たち」で、ジュリアン・ムーアが50年代の専業主婦を演じてオスカーにダブル・ノミネートされたことだ。

「偶然とはいえ『エデン~』のジュリアンは夫がホモだと気づく妻で、『めぐりあう時間たち』では自分がレズだと気づく妻なんだもの。しかし彼女は凄い。『めぐりあう~』のジュリアンは70年代以降のアメリカ映画の演技、つまりアクターズ・スタジオのメソッドによる内面表現をしている。心理や人格を表情やセリフ回しで明示する方法だ。ところが『エデン~』のジュリアンはメソッド以前の演技作法、様式的な表現や抑えたセリフ回しで内面を暗示している。彼女はほとんど同じキャラクターを正反対の手法で演じたわけ。たいした才能だよ」

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平均評価
3.6 3.6 (全5件)
  • 重い題材をあえてメロドラマに 「キャロル」の監督、トッドヘインズ氏の監督作品ということで鑑賞。ジュリアンムーア扮する一流企業の夫を持ち周囲から羨望を集める主婦キャシーが、突然夫にゲイを宣告され、ショックの中で優しくされた黒人... ...続きを読む

    non nonさん  2017年1月31日 22:44  評価:3.5
    このレビューに共感した/0人
  • ぜんぶ気に入った! 実はタイトルとかエンドロールとかもこの年代風にしてあってめちゃくちゃオシャレ。終わるタイミングもちょうどいい。 それにしても男はクソですな。男って一括りにはしたくないけど、アレは酷すぎる。本当... ...続きを読む

    JYARI JYARIさん  2016年6月19日 00:08  評価:4.0
    このレビューに共感した/0人
  • クラシカルな美しさ 色彩の美しさに目を奪われる。 グリーン、オレンジ、レッドといった風景やインテリア、衣装と鮮やかな色が全体に溢れていて、とても美しい。 クラシカルな優美な音楽とレトロな雰囲気の映像が心地よく楽しめ... ...続きを読む

    yumeko yumekoさん  2016年1月4日 03:39  評価:4.5
    このレビューに共感した/0人
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