劇場公開日 2005年3月26日

アビエイター : インタビュー

2005年3月28日更新

マーティン・スコセッシ監督インタビュー  佐藤睦雄

──ハワード・ヒューズを演じたレオナルド・ディカプリオの取り組みはどうでした?

監督が「ヒューズそのもの」と 称えるディカプリオ
監督が「ヒューズそのもの」と 称えるディカプリオ

「レオは、ヒューズがどのような人物だったか、私よりもよく理解していたよ(笑)。ヒューズの資料映像から、彼の声の調子や、内気でありながら人々に愛されたいと思っていたこと、名声を欲していながらカメラを怖れていたこと、空を飛ぶ神のような壮観さを持った映画を考え、神のようになりたいと思っていたのに、ドアのノブについたばい菌のような顕微鏡的なことを怖れていたことなどなどを参考にし、役に打ち込んでいった。レオは、ヒューズを知るジェーン・ラッセル(『ならず者』主演女優)と会ったりして、膨大な量のリサーチをこなした。

だからか、若いハワード・ヒューズ、チャイニーズシアターでのプレミアで燕尾服を着たレオはまるでヒューズにしか見えなかった。

年老いたハワード・ヒューズは、飛行機墜落事故の後、口ヒゲをたくわえている。レオは7時間半かけてメイクアップし、ハワード・ヒューズになりきって試写室のシーンを演じた。裸になってね。試写室をうろつき、ティッシュペーパーを見たり、混乱したさまを見つめていたり。そのたった1つのシークエンスの撮影に、2週間半もかかったよ」

──それはスゴイ! 撮影上、もっとも大変だったのはどんな場面でした?

ディカプリオは危険な撮影にも自ら挑んだ
ディカプリオは危険な撮影にも自ら挑んだ

「保険会社からレオに飛行機を操縦させてはダメだと言われてねぇ(笑)。ほとんどの飛行シーンはクロマキー撮影で、グリーンスクリーンの前で演じてもらった。大変だったのは偵察機を試乗したヒューズが地面にクラッシュする場面だ。彼は勇敢な俳優だよ。あちこちで爆発が起こり、燃えさかる炎の中、コックピットから脱出する危険な撮影だった。撮影後、あまりの恐怖に、レオも凍りついたようになっていたがね(笑)。

そしてもっとも困難だったのは、本当にツラかったのは、先述した試写室でレオが少しずつ狂気の度合いを深めていく場面だね」

──彼の“壊れていく”演技は強烈でした。

「私たちは強迫神経症の課題に取り組み、私たちはUCLAのジェフリー・シュワルツ博士という権威に会いに行った。彼は1つ1つのシーンについて、強迫神経症がどんな徴候を示すのか説明してくれた。ある時点で、どういうことが起こり、どういうことが起こらないのか、だ。私たちは、顔面痙攣や神経症的な咳、モノに触ることなどの奇行ぶりについて、大きな表を作って、『じゃあ、彼はここでズボンの足を触れるが、咳はでない』などと入念に打ち合わせをした。レオには、強迫神経症の進行具合に応じて、演じ分けてもらわなければならなかった(笑)。編集室では大量にカットすることになったがね。レオも(その撮影では)気がおかしくなっていた。私たち皆が発狂しそうだった!」

──「地獄の天使」の製作でも、完璧主義に対する強迫神経症がみられますが、あなたにも似たような症状がありますか?

打ち合わせ中の監督とディカプリオ
打ち合わせ中の監督とディカプリオ

「映画製作でもっとも楽しいのは、私とフィルム編集者のセルマ・スクーンメイカーとで編集室に籠もり、映画会社の口出しもなく、照明の問題も俳優の問題もなしに、映画を繋いでいるときなんだよ。ところが撮影中はうまくいかないことも多くて、どうしても強迫神経症的な挙動が多くなる(笑)。

それに今は予算のこともあるし。私もクリント・イーストウッドのような老練な映画作家のように映画を素早く撮り上げ、たくさんの映画を作れる境地に至ることができたらいいんだが、できそうにない。1つ1つのショットにこだわり過ぎてしまうからね(笑)。

撮影前、映画の脚本を持って、映画の計画を立てるだけのためにホテルに籠もる。たくさんの音楽を聴きながら独りきりで、バスローブやパジャマのままで、ショットや映画のルックスをデザインするわけなんだ。『アビエイター』の場合、ロサンゼルスのベルエア・ホテルに8日間こもった。プロダクションデザイナーのダンテ・フェレッティが打合せに来たとき、ダンテは私をまじまじと見て、ひどいイタリア語訛りの英語でこう話すんだ。『マーティ、彼(ヒューズ)はあなたじゃないか?』ってね。おかしいね。飛ぶことは大嫌いなんだが……(笑)。昔はもっとひどかったんだ。今は少しマシになったんだがね」

──「the way of future(未来への道)」という最後の台詞が意味深ですね。

「『未来への道』という台詞は、ヒューズの後半生を暗示していると同時に、アメリカの未来、世界の未来をも象徴している。若い人たちに認識してもらいたいのは、偉大なる権力を得たとしても失墜もありえるということだ。彼の失墜は、彼自身の内なる病からきたが、ある意味で権力の堕落を象徴するものだ。私は、ギリシア神話の“イカロスの翼”を連想させるヒューズの生きざまを通してアメリカンドリームを描きたかった。ヒューズは、父から翼を得て、莫大な遺産を得て、ハリウッドと大空のフロンティアを目指して誰よりも高く飛び立ったが翼は溶けてしまい、破滅的な末路を迎えるわけだ(笑)」

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