コラム:21世紀的亜細亜電影事情 - 第14回

2014年9月29日更新

21世紀的亜細亜電影事情

第14回:従軍慰安婦をテーマにした映画が中国で公開。その評判は?

旧日本軍の従軍慰安婦を題材とした中国映画「黎明之眼」が、満州事変の発端となった柳条湖事件(1931年)がぼっ発した9月18日、中国で公開された。戦争中の日本人の残虐ぶりを強調し、中国人の愛国心を刺激する「抗日作品」だが、公開1週間を過ぎた観客の反応は「まずまず」といったところだ。

「黎明之眼」は、慰安婦にされた女性、娘、孫娘の三代にわたる悲劇を描く。主演は往年の武侠映画の女性スター、チェン・ペイペイ(鄭佩佩)。実の娘で女優の原子[金惠](マーシャ・ユエン)との初共演で母娘役を演じている。メガホンをとったのは、かつて“ブルース・リーのそっくりさん”として活動した香港出身俳優の呂小龍(ブルース・リ)。物語のベースとなったのは、中国の作家・粛馬(スー・マー)が書いた脚本「地獄は何層あるのか」。スーの娘は日本でも公開された映画「シュウシュウの季節」を書いた女性作家、厳歌苓(ゲリン・ヤン)だ。

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予告編をみると旧日本兵の残虐ぶり、戦争の悲惨さを強調。いわば典型的な「抗日作品」となっている。中国芸能情報サイト大手・新浪娯楽は、いわゆるストレートなプロパガンダ映画として紹介。「習近平(シー・ジンピン)国家主席が掲げる愛国主義精神のもと、戦争中に日本が犯した数々の蛮行を露わにした。慰安婦問題は忘れてならない歴史の一部で、戦争が女性や家庭、国家に対し、どれほど深刻な傷を負わせるかを明らかにする」とした。

中国メディアによると、公開を控えた9月中旬には、北京でワールドプレミア上映会が開かれ、監督ほか出演俳優が舞台あいさつに勢ぞろいした。主人公の娘時代を演じたユエンは「撮影中は経験したことのない困難に見舞われた。もともと私は楽観的なタイプだが、主人公があまりに気の毒で、こらえきれず何度も泣いた」と振り返った。また、母親のチェンは「同じ役の違う世代を娘と演じたかったので、長年の夢がかなった。二人で演じた慰安婦が受けた苦しみは忘れがたい」と話した。

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さらに、ジョン・ウー監督の「男たちの挽歌」などで日本でも知られる香港のベテラン俳優、ケネス・ツァン(曾江)は、主人公のかつての恋人役で出演。戦後数十年ぶりに再会すると、彼女が慰安婦にされていたことを知る。ツァンは「形容しがたい苦しみだ。自分の家族がもしこんな残虐行為に巻き込まれたら、どう感じるか考えてほしい。存命の元慰安婦女性たちは勇気をもって生き抜いてほしい」と訴えた。

また、過去20年にわたり慰安婦問題に取り組み、今回の製作では私財も投じた監督は「彼女たちはずっと誤解され、忘れ去られてきた存在だ。戦争の屈辱、女性たちの強さを世に知らせたかった。全世界の人に侵略戦争の真相を知ってほしい」と語った。

公開から1週間で興行収入ランキング上位には入っていないが、観客の評価はまずまずといったところ。中国サイトのレビューをみると、典型的な抗日作品のため、内容より手法や作品の質を批判したものも目立つ。「題材はいいが、中国人俳優が話す日本語のせりふの発音がひどすぎる」、「学校の授業で見せるべき愛国教育映画」、「ベテラン二人の演技は買う」、「精神はいい。これを撮ることは政治的任務だとしても、チケットは買うよ」などの意見が寄せられている。

筆者紹介

遠海安のコラム

遠海安(とおみ・あん)。全国紙記者を経てフリー。インドネシア(ジャカルタ)2年、マレーシア(クアラルンプール)2年、中国広州・香港・台湾で計3年在住。中国語・インドネシア(マレー)語・スワヒリ語・英語使い。「映画の森」主宰。

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