けたたましい夏の大作を忘れさせる、ロマンティックな1本 : FROM HOLLYWOOD CAFE

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コラム

けたたましい夏の大作を忘れさせる、ロマンティックな1本

毎年のことだが、サマーシーズンも半ばに差し掛かってくると、映画に食傷気味になってしまう。派手でけたたましい夏の大作ばかりを見続けていると、映画に多様性があることなどすっかり忘れて、興味をすっかり失ってしまうのだ。しかし、今日「Once」という映画に出会ったぼくは、たちまち映画への情熱を取り戻した。

「Once」公式サイト(英語) アメリカ版公式サイトを開くと、美しいサントラが流れてくる

「Once」は、今年のサンダンス映画祭で観客賞を受賞したアイルランドの音楽映画だ。ダブリンの路地でギターの弾き語りをしている30代の男が、ある晩、チェコ移民の女性と出会う。彼女に音楽の才能があることを知り、2人はコラボレーションを始める。音楽作りの傍らで、互いに惹かれあっていく2人。「Once」は、男女が出会ってから、デモテープ用のレコーディングを終えるまでの数日間が綴られている。

ストーリーは単純なボーイ・ミーツ・ガールだし、台詞もほとんどない。また、低予算のため、ドリーやステディカムなどの撮影機材はおろか、照明すら使っていない。それでもこの映画は、魔法で溢れている。たとえば、2人が楽器店で初めてセッションする場面がある。男がギターで弾き語りをはじめ、女が即興でピアノ伴奏を加えていく。彼女のコーラスが加わったとき、美しいハーモニーが生まれる。男は歌いながらも、戸惑いを隠せない。自分の曲がこれほど美しくなったのは、彼女が素晴らしい伴奏者だからか? それとも、彼女と一緒にいる高揚感のせいで、美しく聞こえるだけなのか? かつて別れた恋人への切ないラブソングを歌いあげながら、男は新たな恋の始まりを予感するのだ。

実際のところ、「Once」はこんな素敵な場面で溢れている。装飾を排した美術も、手持ちカメラのぐらぐらした映像も、親密な雰囲気を醸し出すのに成功している。実際、ハリウッド的な演出は皆無だが、これほどロマンティックな映画もないと思う。脚本・監督を手がけたジョン・カーニーという人は元ミュージシャンということだが、ものすごい才能を持ち合わせたフィルムメーカーであることは一目瞭然だ。日本で「Once」がいつ公開になるのか、そもそも劇場公開されることになるのかさえわからないけれど、とくに映画と音楽を愛する人には、きっと受け入れられるものだと思う。

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FROM HOLLYWOOD CAFE ロサンゼルス在住のフィルムメイカー/ライターの小西未来氏が、ビビッドなハリウッドの姿を毎月届けてくれます。毎月1日頃更新

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