「少年」「テッド」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第56回

2013年12月27日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「少年」

戦後の日本映画を代表する傑作のひとつ 戦後の日本映画を代表する傑作のひとつ (C)大島渚プロダクション [拡大画像]

「タクシーはあかん。速い自動車もあかん。ライトバンか軽四輪。横になんとか商店なんて書いてあるやつ。女の運転してるのが一番ええわ」

少年」の序盤にこんな台詞が出てくる。助言されているのは、「当たり屋」の実行犯に仕込まれた10歳の少年(阿部哲夫)だ。助言しているのは少年の義母(小山明子)。一家は4人だ。残るふたりは、戦争で怪我をしたことを理由に働かない父(渡辺文雄)と、父と義母の間に生まれたチビ(木下剛志)。機能不全というよりも、かなりいびつな家族だ。1960年代後半の日本でさえ珍しい。

4人は日本列島を漂流する。少年が車の前に身を投げ出し、母親が悲鳴をあげ、父親が怒鳴り込む。単純な手口が見破られるのを恐れ、彼らは1カ所に長居しない。故郷の高知を振り出しに、尾道、北九州、島根、福井を転々とし、北海道の稚内にまでたどりつく。

語り口は直線的だ。といっても、感傷に訴える映画ではない。中平康が撮った「当りや大将」のように、庶民の不敵なエネルギーを強調しようとするわけでもない。

むしろ、「少年」は痛いほどにリリカルだ。斥力(せきりょく)の強い瞳。真一文字に結ばれた口もと。家出をしても寂しさがつのり、最悪の家族のもとに戻ってしまう姿。少年のどれもこれもがリアルで、見る側の眼に沁みる。その寂寥感が、殺風景な列島を漂流するというロードムービー的要素と深く絡み合う。

「やろうか、母ちゃん」という台詞も、「日本がもっと広いといいね」という台詞も、耳の奥にこびりつく。大島渚という映画作家の根底に棲む抒情詩人の体質が、これほどはっきりと示された作品はほかにないのではないか。養護施設で発見されて少年を演じた阿部哲夫は、これ1本で映画の世界と縁を切ったといわれる。賢明な判断だ。彼の姿は不滅のイコンとして画面に焼き付けられている。

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少年

WOWOWシネマ 2014年1月14日(火) 19:00~20:45

監督:大島渚
脚本:田村孟
製作:中島正幸、山口卓治
撮影:吉岡康弘、仙元誠三
音楽:林光
出演:渡辺文雄小山明子阿部哲夫木下剛志
1969年日本映画/1時間38分

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「テッド」

想定外の大ヒットを受けて、続編が製作進行中 想定外の大ヒットを受けて、続編が製作進行中 (C)2012 MRC II Distribution Company L.P.
ALL RIGHTS RESERVED.
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私は、ウルトラマンよりテッドが好きだ。E.T.やゴジラや鉄人28号に比べてもテッドが好きだ。テッドと五分の勝負ができるのは、「チャイルド・プレイ」に出てくるチャッキーぐらいのような気がする。なぜだろうか。

私は、自我の拡張に興味がない。架空の存在に「強い自分」を託したがる馬鹿を見ると呆れ返ってしまう。むしろ、自我から逸脱した存在が面白い。それも、別自我や分身などではなく、親しいけれども明白な他者。

テッド」が受けたのは、こういう考えの人が多かったからではないだろうか。テッドは悪い。悪魔のぬいぐるみとまではいわぬが、口が悪くて暴力的で、卑猥なことが大好きだ。その一面、テッドは飼い主のジョン(マーク・ウォールバーグ)と固い友情で結ばれている。信頼とか忠誠とかいった言葉さえ使えそうな関係だ。8歳のクリスマスから35歳の現在まで、両者は親密に結ばれている。ジョンの恋人ロリ(ミラ・クニス)は、両者の密着があまり面白くない。やきもちも少し。

強制的に独り立ちさせられたテッドは、波瀾万丈の運命を生きていく。丸っこくて小さな身体には、剣難と女難が降りかかる。さあ、テッド、きみは生き抜いていけるのか。

脚本・監督とテッドの声を兼ねたセス・マクファーレンが偉かったのは、馬鹿ジョークと好色ギャグのパワーを、一貫して落とさなかったことだ。つまりガス欠がない。ナンセンスな話は全力疾走で乗り切れ、という鉄則をしっかり守って、息切れすることがない。

もうひとつの勝因は、テッドのデザインがよかったことか。とくに眉毛。ふわふわのハイフンを思わせる短い線が、狼狽や当惑にさらされるたび、微妙な動きを見せる。邪悪な喜びを覚えたときは、もっとわかりやすく動く。あっぱれ、マクファーレン。続篇は要らないが、この賭けは快勝だった。

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テッド

WOWOWシネマ 2014年1月25日(土) 22:00~00:00

原題:Ted
製作・原案・監督:セス・マクファーレン
製作:スコット・ステューバージョン・ジェイコブス
脚本:セス・マクファーレンアレック・サルキンウェルズリー・ワイルド
音楽:ウォルター・マーフィー
出演:マーク・ウォールバーグミラ・クニスジョエル・マクヘイルジョバンニ・リビシノラ・ジョーンズセス・マクファーレン(テッドの声)
2012年アメリカ映画/1時間47分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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