「美女ありき」「アタック・ザ・ブロック」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第50回

2013年6月26日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「美女ありき」

あきれるほど美しい28歳のビビアン・リー あきれるほど美しい28歳のビビアン・リー (C)ITV Global Entertainment Limited 1941 [拡大画像]

チャーチルが83回も見たとか、スターリンの大好きな映画だったとか、「美女ありき」(1941)には妙に政治的な伝説がつきまとう。

が、それよりも知られた伝説とは、主演俳優がローレンス・オリビエビビアン・リーだったことだろう。映画史上最も名高いラブチームだったふたりには共演作品が3本ある。「無敵艦隊」(1937)、「21日間」(1940)、そして最後が「美女ありき」。

この映画の撮影中、ふたりは「ようやく」結婚したばかりだった。リーが一目惚れしたのが1935年。当時、ふたりにはそれぞれ配偶者がいた。そんな彼らがやがて激しく愛し合い、それ以上に深く傷つけ合ったことは、映画好きならずとも知っている逸話だ。

ただし、そのエピソードのみを借景にして映画を見るのはちょっと考えものだろう。「美女ありき」のエンジンは、なんといってもリーの美貌と心の危うさにほかならない。育ちの悪い娘が貴婦人になりあがり、最後はふたたび浮浪者として滅びていく。映画の冒頭で結論が明かされてしまうとはいえ、そのプロセスがスリリングなのは、リーの危なっかしさが、画面を通して伝わってくるからだろう。こわれやすい美女は観客をハラハラさせるが、それを実感させる女優はそうそういない。

リーは、そんな女を体当たりで演じる。もともと芝居の巧いほうではないが、この映画ではいつにも増して体当たりの印象が強い。「風と共に去りぬ」のスカーレットもそうだが、主人公のエマはなにも性根が悪いわけではない。むしろ彼女は「みずからの悪に無自覚」というほうがふさわしい。

となると、製作者が目論んでいた「戦意高揚」の意図などはほとんど気にかからなくなる。見終えて眼に焼きつくのは、愛欲の温度が上がるたびに崩壊のリスクも高めていくエマの姿だ。公開時、リーは28歳。ルドルフ・マテのキャメラがとらえたその顔は、前から見ても横から見ても、あきれるほど美しい。
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美女ありき

WOWOWシネマ 7月16日(火) 04:45~07:00

原題:Lady Hamilton
製作・監督:アレクサンダー・コルダ
撮影:ルドルフ・マテ
音楽:ミクロス・ローザ
出演:ローレンス・オリビエビビアン・リーアラン・モーブレイサラ・オールグッドグラディス・クーパー
1941年イギリス映画/1時間36分

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「アタック・ザ・ブロック」

淀みやもたつきを笑い飛ばして突っ走った英国製低予算ホラー・コメディ 淀みやもたつきを笑い飛ばして突っ走った
英国製低予算ホラー・コメディ
(C)StudioCanal S.A/UK Film Council/
Channel Four Television Corporation 2011
[拡大画像]

舞台は、ロンドン南部の平凡な団地。

主人公は、ローティーンの非行少年5人。

敵役は、「ゴリラと狼を足して2で割ったような」エイリアンの群れ。

書き並べただけで、金のかかっていないことがすぐにわかる。スターはもちろん出てこない。名の通った出演者といえば、脇にまわったニック・フロストぐらいか。

となると、勝負は知恵と工夫と度胸だ。煩わしい説明や理屈を避け、スピードと気合で、つぎからつぎへと修羅場を作り出していくこと。お手本は「ジョン・カーペンターの要塞警察」(1976)といってもよいが、B級ホラー・コメディに疾走感は欠かせない。

アタック・ザ・ブロック」は、このハードルをきれいにクリアしている。

そもそも、エイリアンの出自がまったく明かされないのが痛快だ。はるばる地球まで飛んできたのだからそれなりの知性は持ち合わせているはずなのに、この「マザーファッカー」どもは走って噛みつくだけだ。闇夜にまぎれた身体は毛むくじゃらで、牙だけが夜光塗料のように輝く。刃物や銃には弱いし、特撮も、さぞかしごまかしが利いたことだろう。

そんな彼らが、なぜ非行少年たちに襲いかかるのか。団地を破壊し、社会を脅かすのはなぜなのか。仲間を殺されたことに対する復讐なのか。それともほかに動機があるのか。

実はある。笑える理由があるのだが、ここではバラさないでおく。胆の据わった非行少年モーゼズ(ジョン・ボヤーガ)は、それをとっこに取って果敢な攻勢に出る。

監督のジョー・コーニッシュは、1968年生まれのコメディアンだ。脚本は書けるし、芝居もできる。その才気が演出に生きている。タイミング感覚にすぐれ、淀みやもたつきを笑い飛ばして突っ走ることができるのだ。クエンティン・タランティーノは、この映画を2011年度のベストテンに選んでいた。納得のチョイスだ。「SUPER 8/スーパーエイト」よりも面白い。
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アタック・ザ・ブロック

WOWOWシネマ 7月19日(金) 21:00~22:45

原題:Attack the Block
監督・脚本:ジョー・コーニッシュ
製作総指揮:エドガー・ライト
出演:ジョディ・ウィッテカージョン・ボヤーガアレックス・エスメイルフランツ・ドラメサイモン・ハワードニック・フロスト
2011年イギリス映画/1時間28分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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