「自転車泥棒」「三等重役」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第45回

2013年1月30日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「自転車泥棒」

イタリア・ネオレアリズモ(新写実主義)の代表作 イタリア・ネオレアリズモ(新写実主義)の代表作 (C)Ladri di Biciclette(C)Licensed by
COMPASS FILM SRL - Rome - Italy. All Rights reserved.
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未見の人はぜひ見ていただきたい。ずっと前に見た人も、ぜひ見直していただきたい。見たけど忘れた、という人はよもやいないだろうが、もしいるようなら、ぜひ記憶をたどり直していただきたい。

自転車泥棒」はシンプルで力強い映画だ。舞台は終戦直後のローマ。大戦の傷痕は深く、人々は仕事を求めてあえいでいる。

アントニオ・リッチ(ランベルト・マジョラーニ)もそのひとりだ。彼は職安でポスター貼りの仕事をもらう。ただし、自転車がなければいけない。彼は、質入れしていた自転車をようやく請け出す。さあ、仕事だ。梯子を担いで自転車に乗り、通りの壁にリタ・ヘイワースのポスターを貼っていこう。

だがリッチは、仕事の初日に自転車を盗まれてしまう。彼は必死で自転車を探す。ビットリオ広場やポルテーゼ門の盗品市場にも足を伸ばす。傍らには幼い息子のブルーノ(エンツォ・スタヨーラ)が従う。もちろん、自転車や犯人が簡単に見つかるわけはない。

ところどころ意表を衝くところはあるが、プロットはほぼ予想どおりに展開する。主人公の言動も、どちらかといえば一本調子だ。貧しくて仕事がなくて、なにがなんでも自転車を取り返さなければならないというモチーフは、あまりにもわかりやすい。終盤に来てチャップリン的な情感が導入されることに白けるという指摘も昔からあった。

それなのに、「自転車泥棒」は観客の眼を惹きつけて離さない。長まわしで切り取られた街の風景が、素晴らしく魅力的だからだ。全編ロケを敢行することと、出演者に素人を起用することはネオレアリズモの憲法だったが、「自転車泥棒」ではその憲法が光り輝いている。貧しさに気づくより顔を見よ。社会の矛盾をなじるより街を見よ。トリュフォー大島渚カウリスマキも、この映画にはきっと一目置いていたはずだ。

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自転車泥棒

WOWOWシネマ 2月16日(土) 08:45~10:30

原題:Ladri di biciclette
製作・監督:ビットリオ・デ・シーカ
脚本:チェザーレ・ザバッティーニスーゾ・チェッキ・ダミーコ
撮影:カルロ・モンテュオリ
音楽:アレッサンドロ・チコニーニ
出演:ランベルト・マジョラーニエンツォ・スタヨーラ、リアネーラ・カレル、ビットリオ・アントヌッチ
1948年イタリア映画/1時間29分

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「三等重役」

河村黎吉が長生きしていたら、社長シリーズの誕生はもっと遅れたにちがいない。私は、そんな考えを漠然ともてあそぶことがある。

河村黎吉は55歳で死んだ。昭和20年代のこととはいえ、早すぎる死だ。人気が盛り上がりはじめたのは、死ぬ3年前に公開された「三等重役」からだった。

河村はこの映画で雇われ社長を演じた。創業者でもオーナーでもなく、どちらかといえば影が薄く、替わりの人材も簡単に見つかりそうな社長。その飄々とした味わいが人気を集めたのは、日本人の観客の舌が肥えていたからだろう。このときは人事課長に扮した森繁久彌の人気も急上昇した。森繁が社長役を演じるようになったのは56年の「へそくり社長」からだ。もちろん河村が早逝したためだが、この延長線上にあって10年以上もつづいたのが森繁の社長シリーズである。

というわけで、「三等重役」は社長シリーズの祖型として古くから評価されている。河村が演じる桑原は、和歌山あたりがモデルの南海市にある南海産業の社長。前社長の奈良(小川虎之助)は、公職追放にあって再起をうかがっていたが、復活の直前、脳溢血で倒れてしまう。

というわけで、桑原は社長をつづけることになる。妻の着物道楽に振りまわされたり、奈良の二号に誘われたり、東京へ出張して粋な計らいをしてみせたり……要は、小さなエピソードがゆるやかにつながって、戦後日本の世情や人情がさらりと描かれていく。

ただこの映画では、話の展開もさることながら、随所に顔を出す芸達者たちの芝居が見逃せない。好色社長を演じる進藤英太郎とその愛人の藤間紫、さらに沢村貞子岡村文子といったベテランは、さほど出番がなくともやはり画面をさらう。それでもピカ一は、塩辛とんぼを連想させる河村黎吉の姿と声だ。この人には、「江戸前」としかいいようのない切り上げのよさと、柳に雪折れなしの風流があった。

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三等重役

BSプレミアム 2月6日(水) 13:02~14:41

監督:春原政久
製作:藤本真澄
原作:源氏鶏太
脚本:山本嘉次郎、井手俊郎
出演:小川虎之助三好栄子関千恵子河村黎吉沢村貞子千石規子小林桂樹森繁久彌
1952年日本映画/1時間38分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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