「復讐捜査線」「ラブ・アゲイン」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第42回

2012年10月31日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、毎月、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「復讐捜査線」

パラノイア的な眼光と捨身のアクションは健在 パラノイア的な眼光と捨身のアクションは健在 (C) 2009 GK Films,LLC.All Rights Reserved [拡大画像]

メル・ギブソンの顔を見ると、反射的に浮かぶフレーズがある。「死んでやる、死んでしまえ」という一行だ。「リーサル・ウェポン」の第1作を見たとき、私は思わずそうつぶやいた。ギブソン扮する刑事リッグスの捨て鉢な気合が、じかに突き刺さってきたからだ。

以後、私にとってのギブソンは、このフレーズの体現者となった。実際、彼はパラノイアに近い眼をしている。「陰謀のセオリー」でも「ペイバック」でも、そして8年ぶりに銀幕復帰した「復讐捜査線」でも、ギブソンの眼はわけのわからない光り方をする。

この映画で彼が演じるのは、ボストンの刑事トム・クレイブンだ。冒頭、彼は悲劇に襲われる。久しぶりに里帰りした娘エマが、眼の前で射殺されるのだ。もしかすると、標的はトム自身だったのだろうか。が、なにかがおかしい。撃たれる前、エマは鼻血を流して嘔吐し、「病院に連れていって」と訴えていたのだ。

捜査から外されたトムは、単独行動を開始する。が、この映画は、マカロニ・ウェスタンのような即戦即決のファストフード・アクションには向かわない。事件の背景に横たわる陰謀が、かなりくわしく描かれる。

正直なところ、この部分はやや生煮えだった。謎の工作員を演じるレイ・ウィンストンが魅力的なだけに、物語のダークサイドをになう研究所や政府機関の描写を省き、肉体の直接的な衝突にもう少し比重をかけるべきではなかったか。

それでも、ギブソンの「死んでやる、死んでしまえ」の気合は健在だ。腹はいくらかたるみ、頭頂部の髪もやや薄くなったものの、その眼光と捨身のアクションは、やはり眼を奪う。50代後半の年齢にさしかかった彼だが、天性の「動物電気」をもうしばらく保っていてもらいたいものだ。

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復讐捜査線

WOWOWシネマ 11月12日(月) 02:15~04:15

原題:Edge of Darkness
監督:マーティン・キャンベル
脚本:ウィリアム・モナハンアンドリュー・ボーベル
撮影:フィル・メヒュー
編集:スチュアート・ベアード
音楽:ハワード・ショア
出演:メル・ギブソンレイ・ウィンストンダニー・ヒューストンボヤナ・ノバコビッチ
2010年アメリカ・イギリス合作/1時間56分

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「ラブ・アゲイン」

色男役ライアン・ゴズリングの演技にご注目 色男役ライアン・ゴズリングの演技にご注目 (C) Warner Bros. Entertainment Inc. [拡大画像]

デザートはなににする? と訊かれた妻(ジュリアン・ムーア)は「離婚」と答える。夫(スティーブ・カレル)はのけぞる。え、嘘だろ? 話はここからはじまる。

夫は童貞で結婚して、40歳の今日まで妻以外の女を知らない。が、まだまだややこしい事情がある。13歳の息子が17歳のベビーシッター(アナリー・ティプトン)に恋をし、ベビーシッターはベビーシッターで、夫に恋い焦がれているのだ。

いや、話はもっともっとややこしくなる。夫は、遊び人のジェイコブ(ライアン・ゴズリング)に出会い、ナンパ術の指南を受ける。そのジェイコブはハンナ(エマ・ストーン)という娘に出会って恋に落ち、びっくり仰天の展開に眼を白黒させる。要するに、この先展開されるのは「関係のポーカー」と思えばよい。

ダン・フォーゲルマンの脚本は、カードの見せ方も巧いが、隠し方がもっと巧い。つまりなんとも達者なゲームメーカーなのだが、もうひとつ注目すべきは、ハートに触れる作法がなかなかこまやかなところだ。

ざっくりいってしまうと、このコメディには敵役がいない。話は馬鹿馬鹿しいほどにこじれるが、悪意や陰謀や策略の手を借りずに、皮肉と笑いと痛みをブレンドできたのは、なんといってもフォーゲルマンの功績だ。彼は、登場人物を自在に動かしつつも、たんなる手駒にはしない。ご都合主義であやつるのではなく、彼らのハートのありようや変化に身を添わせながら話を展開していくのだ。

となると、俳優たちの技やデリカシーも当然求められる。私は、脇を固めるマリサ・トメイジョン・キャロル・リンチの芝居に笑ったが、最も強烈なパンチを放っているのはライアン・ゴズリングだ。演技の幅が広いのは知っていたが、これほど速い芝居ができるとは驚きだった。この若さでダークなアクションやひねったコメディをこなせるのなら、将来がいよいよ楽しみだ。

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ラブ・アゲイン

WOWOWシネマ 11月22日(木) 01:15~03:15

原題:Crazy, Stupid, Love.
監督:グレン・フィカーラジョン・レクア
製作:スティーブ・カレルデニース・ディ・ノビ
脚本:ダン・フォーゲルマン
出演:スティーブ・カレルライアン・ゴズリングジュリアン・ムーアエマ・ストーンマリサ・トメイジョン・キャロル・リンチケビン・ベーコン
2011年アメリカ映画/1時間58分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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