「巴里のアメリカ人」 「ソルト」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第25回

2011年6月10日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「巴里のアメリカ人」

この年のアカデミー賞で、ジーン・ケリー(左)は名誉賞を受賞した この年のアカデミー賞で、ジーン・ケリー(左)は名誉賞を受賞した 写真:Everett Collection/アフロ [拡大画像]

映画史の七不思議、といえば大げさかもしれないが、この事実を前にすると、私はいまでも首をかしげてしまう。「巴里のアメリカ人」は、1952年のアカデミー賞でなんと6部門を制しているのだ。

衣裳や美術だけなら、私も納得する。が、脚本賞や作品賞となると……。ハリウッド・ミュージカル絶好調の時代とはいえ、これはやはり過大評価ではないだろうか。

主人公ジェリー(ジーン・ケリー)は、パリ在住の貧乏なアメリカ人画家だ。友人はピアニストのアダム(オスカー・レバント)や歌手のアンリ(ジョルジュ・ゲタリー)。

やがてジェリーは、マイロ(ニナ・フォッシュ)という裕福な女性の庇護を受けつつ、リーザ(レスリー・キャロン)という娘と恋に落ちる。だが、リーザは……。

まあ、プロットはどうでもよい。登場人物も切り紙細工の域を出るものではない。さらにいうと、最大の売り物であるはずのジーン・ケリーのダンスにも奇跡は起こらない。身体能力の高さはよくわかるのだが、エレガンスの香りはなかなか伝わってこないのだ。

となると、興味の焦点はやはりジョージ・ガーシュウィンの曲に移る。これはさすがに聴きごたえがある。「アイ・ガット・リズム」にしても「ス・ワンダフル」にしても、映画の公開に先立つこと20年以上前の曲とは思えないほどみずみずしく、聴く者の心を浮き立たせてくれるのだ。そう、「巴里のアメリカ人」は、ガーシュウィンに捧げられたオマージュとして見ればよいだろう。ケリーのミュージカルとしては、翌年公開されてオスカーとほとんど無縁だった「雨に唄えば」のほうが、ずっと力強いのではないか。
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巴里のアメリカ人

NHK BSプレミアム 6月16日(木) 13:00~14:55

原題:An American in Paris
監督:ビンセント・ミネリ
製作:アーサー・フリード
原作・脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
音楽:ジョージ・ガーシュウィン(作曲)、アイラ・ガーシュウィン(作詞)
音楽監督:ソウル・チャップリンジョニー・グリーン
出演:ジーン・ケリーレスリー・キャロンオスカー・レバント
1951年アメリカ映画/1時間53分

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「ソルト」

フィルモグラフィーの大半がアクション映画のアンジー。続編にも期待 フィルモグラフィーの大半がアクション映画のアンジー。
続編にも期待
写真:Everett Collection/アフロ [拡大画像]

ジンジャー・ロジャースはハイヒールを履いたフレッド・アステアだ、という言い方がある。この伝でいうなら、エブリン・ソルトは裸足で戦うジェイソン・ボーンだ。しかも彼女は記憶喪失症ではない。

ソルトは強い。そのアクションは驚天動地だ。高速道路の陸橋からトラックの屋根に飛び下りるだけではない。道の分岐点ではタンクローリーにも飛び移る。裸足で街路を駆けめぐり、エレベーター・シャフトをスパイダーマンのように跳ね下りる。

なぜか。いうまでもないが、彼女は追われている。それもある日突然、スリーパーの疑いをかけられたのだ。スリーパーとは、長年にわたって敵国に潜入していた二重スパイを指す。ソルトの場合は、アメリカに亡命してきたロシア人の口から、そう告げられる。それも、彼女が働くCIAのボスや同僚が集まっている面前で。そこで、彼女は逃げる。ロシア大統領やアメリカ大統領までアクションに巻き込んで、話はけっこう大きく広がる。

とまあ、プロットはありがちだが、監督のフィリップ・ノイスはスロットル全開で映画を驀進(ばくしん)させる。原動力はもちろん、ソルトに扮するアンジェリーナ・ジョリーの肉体だ。

ジョリーは、荒唐無稽な映画のヒロインを演じさせると圧倒的にゴージャスだ。本当はそれほど運動神経が発達しているわけではないだろうに、全力で走っても息は切れないし、高いところから跳躍するときも下を見ない。しかも彼女は、見た目が華やかだ。眼も口も肩も腰も尻も、すべてが劇画的アクションにふさわしい。つまり、見ていて楽しい。もともとはトム・クルーズを主人公にした男性アクションが想定されていたようだが、ジョリーが主役でよかった。彼女の動物電気はやはり群を抜いている。
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ソルト

WOWOW 6月25日(土) 14:30~16:12

原題:Salt
監督:フィリップ・ノイス
撮影:ロバート・エルスウィット
音楽:ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演:アンジェリーナ・ジョリー、リーブ・シュライバー、キウェテル・イジョフォー
2010年アメリカ映画/1時間41分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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