「左ききの狙撃者 東京湾」「夕陽のギャングたち」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第21回

2011年4月11日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「左ききの狙撃者 東京湾」

もともとは「東京湾」が映画の題である。それがいつのまにか、「左ききの狙撃者」という副題が頭につけられるようになった。事情は知らぬが、私は「東京湾」だけでいいと思う。無駄なことを。

そう思ったのも「東京湾」がタイトな映画だからだろう。撮影や演技に無駄がなく、展開が速い。もちろん、条件はそろっている。上映時間が短く(84分)、製作費が低予算で、スターが出てこない。となれば、フットワークも軽くなる。軽快というより、駿足の映画だ。それも、最短距離を短い直線でさっとつないでいくスプリント。

題名が示すとおり、舞台は東京の湾岸地帯だ。京成立石、浅草、押上、荒川の河口。1962年(昭和37年)公開の映画だから、オリンピック開催前の東京の姿はいきいきと映し出される。撮影はオールロケ。監督の野村芳太郎は冗長な台詞やキャメラのダンスを極力省き、筋肉質の男たちに街を駆け回らせる。

麻薬がらみの話を動かすのは、刑事と狙撃者だ。澄川という刑事が西村晃で、井上という狙撃者が玉川伊佐男。地味と感じられるかもしれないが、輪郭は鮮明で味も濃い。あとは、若い刑事の秋根に石崎二郎、井上の妻に葵京子三井弘次細川俊夫佐藤慶も癖のある顔を覗かせる。

まあ、筋は複雑ではない。サスペンスの構築もさほど凝ったものではない。が、野村芳太郎は、切れ味や緊迫感やスピード感を強く刻印しようとする。実際、この映画は観客の手もとに食い込む鋭い内角球だ。登場人物に甘えはなく、風景はムードに流れず、映画全体がしっかり汗をかいている。たとえていうなら、将棋の駒が盤面にぴしりぴしりと叩きつけられる感じか。余分なタメや思わせぶりがない分、映画の引力も強く感じられる。

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左ききの狙撃者 東京湾

WOWOW 4月27日(水) 08:00~09:24

監督:野村芳太郎
企画:佐田啓二
出演:石崎二郎、榊ひろみ葵京子西村晃玉川伊佐男佐藤慶
1962年日本映画/1時間24分

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「夕陽のギャングたち」

R・スタイガーとJ・コバーン(右)。当初、レオーネはフアン役にE・ウォラックを希望していた R・スタイガーとJ・コバーン(右)。
当初、レオーネはフアン役にE・ウォラックを希望していた
写真:Album/アフロ [拡大画像]

題名だけを見れば、マカロニ・ウェスタンの変種と思われるかもしれない。が、ありようは「左翼ウェスタン」である。なにしろ冒頭に引用されるのが、「革命は晩餐会などではない」と断言した毛沢東の言葉なのだ。

といっても、監督は娯楽映画の鬼セルジオ・レオーネである。彼は、この映画の3年前に「ウエスタン」を撮った。5年前には「続・夕陽のガンマン」を撮り、7年前には「荒野の用心棒」も撮った。

そんな彼が、「荒野の用心棒」の主役をやるはずだったジェームズ・コバーンロッド・スタイガーと組んで、メキシコ革命の渦中に舟を漕ぎ出していく。時代は1910年代。

スタイガーが演じるフアンは、ケチな強盗団の親玉だ。コバーンの扮するショーンは、逃亡中のIRA爆弾テロリストだ。そんなふたりが、動乱のさなかのメキシコの荒野で出会う。フアンもショーンも、英語でいえばジョンだ。フアンはショーンに銀行強盗を持ちかける。ジョンの爆薬とジョンの度胸があれば、大金の強奪も思うがままだ……。

が、銀行の地下は政治犯を収容する監獄と化していた。金庫破りをするつもりが牢獄破りをすることになったフアンは「革命の英雄」扱いを受け、なんだかくすぐったい立場に置かれる。一方のショーンも、飄々とした態度を変えぬまま、革命軍に肩入れしていく。

とまあそんなわけで、超ロングショットと超クロースアップをめまぐるしく入れ替わらせるレオーネ流の映像言語は「夕陽のギャングたち」でも健在だ。スタイガーの芝居が一本調子なことと話の語り口がやや鈍重なことは残念だが、後半に入ると、レオーネ特有のペシミズムがしだいに色濃くなり、映画全体も不思議な哀感を帯びはじめる。この味わいは捨てがたい。エンニオ・モリコーネの主題曲もコバーンの長い脚によく似合っている。

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夕陽のギャングたち

NHK BSプレミアム 4月26日(火) 13:00~15:38

原題:Giu la testa
監督:セルジオ・レオーネ
出演:ロッド・スタイガージェームズ・コバーンマリア・モンティ、ロモロ・バッリ
1971年イタリア映画/2時間37分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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