「ハイ・シェラ」「フットルース」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第20回

2011年3月29日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「ハイ・シェラ」

ハンフリー・ボガート、41歳での初主演作 ハンフリー・ボガート、41歳での初主演作 写真:Album/アフロ [拡大画像]

1930年代のハンフリー・ボガートは悪役専門の俳優だった。それも、週給550ドルのギャング役を年に5、6本というペースだったようだから、仕事ぶりは華やかさからほど遠い。大きな役がついたのは、36年の「化石の森」ぐらいか。ただ、大恐慌時代がまだ過ぎ去っていなかった上に、ハリウッドのスタジオ・システムが全盛の時代だったから、文句はなかなかいえなかった。

そんなボギーに、幸運がめぐってくる。「ハイ・シェラ」の主役をポール・ムニジョージ・ラフトが断ったため、彼にお鉢がまわってきたのだ。

ボギーが演じたロイ・アールは、拳銃王ジョン・デリンジャーとも知り合いのギャングという設定にされている。8年ぶりに出獄した彼はリゾートホテルの金庫を襲うが、仲間のふたりが事故死したため、愛人マリー(アイダ・ルピノ)と犬を伴って必死の逃亡を強いられる羽目に陥る。

ロイは、凄みのある男だが情にもろい。農園を失った老人を手助けしたり、老人の孫娘の手術代を肩代わりしてやったりするうち、捜査の網はどんどん狭まってくる。果たして彼は逃げ切ることができるのか。

監督のラオール・ウォルシュは、骨太のタッチを一貫させてロイの逃亡劇を描いていく。特別な撮影術や編集術が見られるわけではないが、なにしろ脚本(ジョン・ヒューストンだ。半年後、「マルタの鷹」で監督デビューした彼は、ボギーを主役に起用する)がタイトなことに加えて、ボギーとルピノの輪郭が際立っている。終盤に展開されるカーチェイスや銃撃戦もさすがの迫力だが、観客の眼は40代に差しかかったばかりのボギーの男ぶりに吸い寄せられるはずだ。ちなみに、ロイが可愛がる捨て犬パードに扮したのは、ボギーが実際に飼っていたゼロという愛犬だった。

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ハイ・シェラ

WOWOW 4月14日(木) 08:00~09:42

原題:High Sierra
監督:ラオール・ウォルシュ
脚本:ジョン・ヒューストンW・R・バーネット
出演:ハンフリー・ボガートアイダ・ルピノアーサー・ケネディ
1941年アメリカ映画/1時間41分

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「フットルース」

ケビン・ベーコンの出世作。左はクリス・ペン ケビン・ベーコンの出世作。
左はクリス・ペン
写真:Album/アフロ [拡大画像]

最初にお断りする。「フットルース」は弱点の目立つ映画だ。脚本に穴が多く、ご都合主義で、急所を見抜く視力も備わっていない。

にもかかわらず、私はこの映画を憎めない。理由はふたつある。

ひとつは、ケビン・ベーコンクリス・ペンの魅力だ。仲よし高校生に扮するこのふたりの芝居には骨がある。ベーコンは速く、ペンはぬいぐるみのようだが、どちらもふくみ笑いの感覚を忘れていない。つまり、セクシーとかワイルドとかいった出来合いの形容を赤面させる可愛らしさが滲み出てくる。

もうひとつの理由は、「フットルース」が安いシニシズムの汚染を免れていることだ。この映画が公開された1984年とは、いまにして思うとずいぶん野暮な時代だった。服装も、髪型も、音楽も、身ぶりも。

90年代後半以降に登場した「80年代再現映画」は、この事実にウィンクしてみせることが多かった。はい、ダサいのはわかっていますよ、でも愛嬌があったでしょ、という言い訳が忍び込んでくるのだ。「ウェディング・シンガー」や「ロミーとミッシェルの場合」といった比較的よくできた作品でも、この弊は免れていない。

だが「フットルース」は、そんなウィンクなどしてみせない。シカゴから中西部の小さな町へ転校してきたレン(ケビン・ベーコン)が、ダンスとロックンロールを禁止する町の体制に身体ごとぶつかっていくだけの話なのだが、ベーコンの一本気な態度がなんとも好ましい。まばたきをせず、腹筋をひきしめ、軽快なフットワークを見せ、なおかつ直球を投げつづける芝居は、やはり「フットルース」の屋台骨を支えていたのではないか。そんな彼に独特の怪しい味が加わってくるのは、もう少し先のことだ。

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フットルース

NHK BSプレミアム 4月15日(金) 13:00~14:48

原題:Footloose
監督:ハーバート・ロス
出演:ケビン・ベーコンロリ・シンガージョン・リスゴーダイアン・ウィーストサラ・ジェシカ・パーカー、クリストファー・ペン
1984年アメリカ映画/1時間47分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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