「扉をたたく人」「さらば友よ」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第2回

2010年6月28日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「扉をたたく人」

ジェンキンス(左)は本作で、07年度のアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた ジェンキンス(左)は本作で、07年度の
アカデミー賞主演男優賞にノミネートされた
Photo:Album/アフロ [拡大画像]

リチャード・ジェンキンスは場面をさらう俳優だ。デビッド・O・ラッセル監督の「アメリカの災難」ではマリワナでハイになった麻薬取締官を演じ、全裸で野原を駆けまわっていた。コーエン兄弟監督の「バーン・アフター・リーディング」ではジムのマネジャーに扮し、額の禿げ上がった長大な顔をいつも困惑させていた。彼を見るたび、私は笑いを噛み殺せなくなる。出てくるだけで、得をしたような気になるのだ。

そんなジェンキンスが「扉をたたく人」では石頭で男やもめの大学教授に扮している。教授の名はウォルター。コネティカットの大学で教えている彼は、学会での発表のため、ニューヨークへやってくる。ところが、借りているアパートに足を踏み入れたとたん、浴室から若い女の悲鳴があがる。恋人とおぼしき青年も飛び出してくる。

若い恋人たちは、いいかげんな話に乗せられてウォルターのアパートを無断借用していたのだった。謝って部屋を出ていくふたりを、ウォルターは階段の上から呼び止める。ひと晩なら泊まっていってかまわないよ。

話はここから出発する。青年はアフリカン・ドラムを叩くシリアからの移民だった。娘はセネガルの出身だ。不法滞在者の彼らには、当然のように災厄が降りかかる。ウォルターは彼らに手を貸そうとする。弁護士も雇う。ほどなく、ミシガン州に住む青年の母親(ヒアム・アッバス)がニューヨークへやってくる。愚劣と切り捨てるにはあまりにも頑迷な官僚主義と、彼らは戦わざるを得ない。静かだが、心に沁みる戦いだ。ジェンキンスは、この過程で何度も観客の眼をみはらせる。ドラムを覚えて小さく首を振るときの表情。階段の上から人を呼び止めるときの不思議に真剣な表情。彼の演技とヒアム・アッバスの演技が低く響き合う瞬間は、ぜひとも見逃さないでいただきたい。

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扉をたたく人

7月6日(火) WOWOW 10:10〜

原題:The Visitor
監督・脚本:トム・マッカーシー
出演:リチャード・ジェンキンスヒアム・アッバスハーズ・スレイマン
2007年アメリカ映画/1時間44分

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「さらば友よ」

アラン・ドロン(左)とチャールズ・ブロンソン アラン・ドロン(左)とチャールズ・ブロンソン Photo:Album/アフロ [拡大画像]

突っ込みたくなるところは何カ所もある。思わず吹き出してしまう場面も少なくない。勢いあまって罵倒してしまう観客だっているかもしれない。

さらば友よ」は欠点の多い映画だ。脚本は舌足らずだし、無駄に気取った構図は散見されるし、そもそも主演のアラン・ドロンチャールズ・ブロンソンのふたりが、あまりにも恰好をつけすぎている。

が、裏を返せば、これらはすべて「さらば友よ」のえくぼや愛嬌になる。少なくとも、40年前の私はこの映画をけっこう楽しんで見た記憶がある。いまでも悪口をいう気にはなれない。馬鹿だなあと苦笑するところはあっても、ドロンとブロンソンの男伊達は、その突出したマチズモはもとより、思わず口笛を吹きたくなるようなカリスマ性や動物電気に隈取られているのだ。

ドロンが演じるのはアルジェリア帰りの軍医だ。ブロンソンはアメリカ人の傭兵。マルセイユの港で出会ったふたりは、パリの企業で金庫破りを試みることになる。もちろんそこには、謎の女(オルガ・ジョルジュ=ピコ)の手が働く。ふたりの男は、たがいに突っ張りながら金庫破りに挑む。むきだしの上半身をそろって誇示し、冗談のようなドジも踏みつつ犯行を成就しようとする。

そうか、マカロニウェスタンと同時代だったのか。公開後しばらく経って私は気づいた。クリント・イーストウッドと同様、当時のブロンソンも、「マッチョ熱」にうかされた欧州映画界の一大ゲストスターだったわけだ。そういえば、酒をなみなみと満たしたグラスにコインを1枚ずつ沈めていく有名なシーンなどは、「荒野の用心棒」や「夕陽のガンマン」に出てきてもおかしくないではないか。

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さらば友よ

7月13日(火) NHK衛星第2 0:45〜

原題:Adieu L'ami
監督:ジャン・エルマン
出演:アラン・ドロンチャールズ・ブロンソンブリジット・フォッセー
1968年フランス映画/1時間55分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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