コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第18回

2011年2月28日更新

芝山幹郎 テレビもあるよ

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「四十挺の拳銃」

パルプ・ウェスタンと呼ぶべきだろうか。それともフィルム・ノワールの変種というべきだろうか。てきぱきと撮られ、さくっとまとめ上げられ、なおかつ不思議な味わいを残す「四十挺の拳銃」を見ると、私は思わずにやりとしたくなる。

つまり、これは並の西部劇ではない。かといって、新奇な意匠のみが先行する「反西部劇」のように頭でっかちな映画ではない。

舞台はアリゾナ州コーチス郡にある小さな町だ。町は、女牧場主のジェシカ・ドラモンド(バーバラ・スタンウィック)に牛耳られている。知恵と色香と財力を備えた彼女は、40人のガンマン(題名はここから来ている)を従え、黒衣に身を包み、白馬にまたがって荒野を疾駆する。ただ、彼女にはブロッキーという馬鹿な弟がいる。なにかといえば町で悶着を起こす弟は、彼女の頭痛の種だ。

そんな町へ、新しい保安官グリフ・ボネル(バリー・サリバン)が着任する。名を知られたガンマンのグリフは、ウェスとチコというふたりの弟を伴っている。

というわけで、当然のことながらジェシカは板ばさみになる。弟を保護したい気持と、保安官への切ない慕情との板ばさみだ。

この中年男女の恋は、なかなか渋く描かれている。だがもっと渋いのは、監督サミュエル・フラーの繰り出す骨太なショットの数々だ。グリフが長い脚を交互に前に出して歩く場面や、いくつかの銃撃戦の場面。そして竜巻に襲われたジェシカとグリフが辛うじて危機を脱する場面などは、やはり身を乗り出してしまう。ここでは、物語の余分な贅肉が容赦なく削ぎ落とされている。同時にフラーは、大胆な長まわしと果敢な省略を共存させることで、作り話に伴いがちな「ご都合主義」の罠をみごとに切り抜けているのだ。セルジオ・レオーネマーティン・スコセッシらは、後年、それぞれ異なった形でフラーの影響を受けている。

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「四十挺の拳銃」

WOWOW 3月9日(水) 09:20~11:05

原題:Forty Guns
製作・脚本・監督:サミュエル・フラー
出演:バーバラ・スタンウィック、バリー・サリバン、ディーン・ジャガー
1957年アメリカ映画/1時間21分

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「第9地区」

「荒唐無稽な外観」と「リアルな細部」が共存
「荒唐無稽な外観」と「リアルな細部」が共存

第9地区」の株価が、私のなかで下がらない。下がらないどころか、好感度がじわじわと高まっている。モダンクラシックとしての地位さえ確立しつつあるくらいだ。一本の娯楽映画に対してこういう感情を抱くのは、もしかすると「続・夕陽のガンマン」以来のことかもしれない。

速くて、大胆で、クレイジー。

この3つは、カルト映画の資格を得るための必要条件だ。

「続・夕陽のガンマン」と同様、「第9地区」はこれを満たしている。しかも両者は、ジャンル映画という枠をあえて踏み外そうとしない。いや、その枠をむしろ歓迎しているかに見える。ここが貴重だ。この姿勢があればこそ、活動屋魂も燃え上がる。

話の筋立てはみなさん、先刻ご承知だろう。南アのヨハネスブルク上空で、宇宙船が停止する。宇宙船に乗り組んでいた大量のエイリアンはゲットーに隔離され、「エビ」と呼ばれて蔑まれる。しかも彼らは、新たなゲットーへの移住を強制されている。

これが話の起点だ。29歳の新人監督ニール・ブロムカンプは、ここから話の枝葉を繁らせる。その発想がダイナミックだ。奇想天外で、おしゃべりで、波瀾万丈の活劇が満載されている。なおかつ、発想の起点には「悪夢的」ともいうべき南アの人種隔離政策が透けて見える。いいかえるなら、ブロムカンプは「悪夢に悪夢を迎え撃ち」させている。

これだけ発想に凝れば、映画が面白くならないわけはない。しかもブロムカンプは「荒唐無稽な外観」と「リアルな細部」を共存させ、人類の側からもエビの側からもユニークなキャラクターを送り出した。一見突飛なこの組み合わせが、映画の脈拍を高める。怒りをつのらせ、笑いを爆発させ、観客をとんでもない場所へとさらっていく。20年後、あるいは30年後にも、「第9地区」は力強く生き延びているにちがいない。

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第9地区

WOWOW 3月12日(土) 14:00~15:55

原題:District 9
監督:ニール・ブロムカンプ
脚本:テリー・タッチェル、ニール・ブロムカンプ
製作:ピーター・ジャクソン、キャロリン・カニンガム
出演:シャルト・コプリーデビッド・ジェームズジェイソン・コープ
2009年アメリカ映画/1時間53分

筆者紹介

芝山幹郎のコラム

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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