「裸足の伯爵夫人」「華麗なる賭け」 : 芝山幹郎 テレビもあるよ

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コラム:芝山幹郎 テレビもあるよ - 第15回

2011年1月11日更新

映画はスクリーンで見るに限る、という意見は根強い。たしかに正論だ。フィルムの肌合いが、光学処理された映像の肌合いと異なるのはあらがいがたい事実だからだ。

が、だからといってDVDやテレビで放映される映画を毛嫌いするのはまちがっていると思う。「劇場原理主義者」はとかく偏狭になりがちだが、衛星放送の普及は状況を変えた。フィルム・アーカイブの整備されていない日本では、とくにそうだ。劇場での上映が終わったあと、DVDが品切れや未発売のとき、見たかった映画を気前よく電波に乗せてくれるテレビは、われわれの強い味方だ。

というわけで、2週間に1度、テレビで放映される映画をいろいろ選んで紹介していくことにしたい。私も、ずいぶんテレビのお世話になってきた。BSやCSではDVDで見られない傑作や掘り出し物がけっこう放映されている。だから私はあえていいたい。テレビもあるよ、と。

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「裸足の伯爵夫人」

女性として、女優として絶頂期を迎えていたエバ・ガードナー 女性として、女優として絶頂期を迎えていたエバ・ガードナー 写真:Album/アフロ [拡大画像]

マドリッドの酒場で踊っていた若い娘がハリウッドにスカウトされてスターになり、そのあとも有為転変の人生をたどる――通常、「裸足の伯爵夫人」の筋書はこのように要約されることが多い。

まちがいではない。外郭だけをなぞれば、ほぼそういう感じだ。が、この要約では1950年代の凡庸なメロドラマと大差ないものになってしまう。それでは困る。「裸足の伯爵夫人」には奇妙な味がある。あの時代のメロドラマの通例から、ぐいっとはみだす気配がある。

ひとつはマリアに扮したエバ・ガードナーのあでやかさだ。ガードナーは、この映画の公開当時32歳だった。彼女の場合、いわゆる女盛りと女優としてのピークが一致している。「キリマンジャロの雪」も「モガンボ」も「陽はまた昇る」も、ほぼ同時期の作品だ。

どの映画でも、彼女は男たちを右往左往させた。クラーク・ゲーブルタイロン・パワーも振り回されていたが、この映画ではハンフリー・ボガートロッサノ・ブラッツィが困惑する。ただ、ガードナーは策を弄したわけではない。大輪の花さながら、彼らの傍らで豪華に咲き誇っていただけなのだ。だが男たちは、必要以上の敗北感を味わってしまう。

もうひとつ特筆すべきは、監督ジョセフ・L・マンキウィッツの透徹した視線だ。シンデレラだったはずのマリアの非業の最期を最初から明かしておいて、その経緯を観客に納得させる手腕はやはり侮りがたい。それを可能にしたのは、保護者のボガートや悲劇の夫のブラッツィ以外に、癖の強い男たちを数人、惑星のようにマリアの周囲に配置したからだと思う。汗っかきの宣伝マンを演じたエドモンド・オブライエンは、この作品でアカデミー助演男優賞を獲得している。

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裸足の伯爵夫人

WOWOW 1月19日(水) 11:00~13:25

原題:The Barefoot Contessa
監督・脚本:ジョセフ・L・マンキウィッツ
出演:ハンフリー・ボガートエバ・ガードナーエドモンド・オブライエン
1954年アメリカ映画/2時間11分

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「華麗なる賭け」

99年にはP・ブロスナン&R・ルッソ主演で本作をリメイク。ダナウェイも出演した 99年にはP・ブロスナン&R・ルッソ主演で本作をリメイク。
ダナウェイも出演した
写真:AFLO [拡大画像]

40年以上前、私は渋谷道玄坂の映画館で「華麗なる賭け」を見た。記憶に残ったのは、スティーブ・マックィーンフェイ・ダナウェイが海辺の別荘でチェスをしながら相手を誘い合い、そのあと70秒もキスする場面だけだった。

DVDで見直してみても、やはりこのシーンの磁力は並外れて強い。冒頭の銀行強盗の場面で犯人のひとりが発煙筒を投げ、その発煙筒を追ってキャメラが床を滑るように動く撮り方も印象的だったが、服を着たままのマックィーンとダナウェイの醸し出す化学変化は、当時としては画期的なものだった。

マックィーンが扮するトーマス・クラウンは、ボストンで優雅に暮らす富豪だ。36歳で独身、離婚歴あり、という経歴はいかにも劇画的だが、彼には犯罪を楽しむ趣味がある。本人にいわせれば、目的は「金の強奪ではなく、腐った体制との対決」らしいのだが。

そんな彼を銀行強盗の黒幕とにらんだのが、保険会社の腕利き調査員ビッキー・アンダーソン(フェイ・ダナウェイ)だ。長い付け睫毛と短いスカートがいかにも60年代のキャリアウーマンといった感じのビッキーは、トーマスの正体を明かそうと意気込みつつ、みるみるうちに彼の魅力に引きずり込まれてしまう。

とまあそんなわけで、「華麗なる賭け」はシリアスな犯罪映画としては物足りないものの、「ムーディな」犯罪映画として憎めない愛嬌を滲ませている。マックィーンが終始一貫ケイリー・グラントを意識して振る舞うのには苦笑を誘われるし、世界中の男は眼で殺せると確信しているダナウェイの芝居もやや強引だが、これはこれで時代の産物というべきか。いや、本来はブルーカラーの役柄を得意とするふたりが足もしびれんばかりに気取ってみせたところに、この映画のなんとも不思議な愛嬌が生まれたと見るほうが当たっているのかもしれない。

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華麗なる賭け

NHK衛星第2 1月27日(木) 13:00~14:43

原題:The Thomas Crown Affair
製作・監督:ノーマン・ジュイソン
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:スティーブ・マックィーンフェイ・ダナウェイポール・バーク
1968年アメリカ映画/1時間43分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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