「極悪非道の千葉真一」2本立て : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム:芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル - 第7回

2009年6月25日更新

第7回:「極悪非道の千葉真一」2本立て

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。第7回は、日本映画史上最も凶暴で最もユニークな悪党を演じた千葉真一にスポットライトを当てることにする。

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千葉真一のキャリアは長い。テレビ映画「新七色仮面」(1960年。波島進の後継者だった。私はよく覚えている)に始まり、いまなお現役の俳優として活躍しているのだから、そろそろ50年選手の称号が与えられてもよいころだ。

ただ、いまにして思うと1970年代の千葉真一には脂が乗り切っていた。精気も侠気も狂気もみなぎり……といえば調子に乗りすぎかもしれないが、「やくざ刑事」シリーズから「殺人拳」シリーズを経て「柳生一族の陰謀」へと至る10年間は、千葉真一の男盛りといってよいのではないか。

そのなかで燦然と輝くのが、極悪非道のアンチヒーローに扮した2本の映画だ。「仁義なき戦い 広島死闘篇」と「沖縄やくざ戦争」。「狂犬」を通り越して「歩く爆薬」と化した千葉真一の代表作2本を見比べてみよう。

■「仁義なき戦い 広島死闘篇」の大友勝利

タランティーノも大友勝利のファン。「デス・プルーフ」(07)の来日記者会見にて タランティーノも大友勝利のファン。
「デス・プルーフ」(07)の来日記者会見にて
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大量の爆薬が破裂している――「仁義なき戦い 広島死闘篇」の千葉真一を見て私は反射的にそう思った。狂犬という感想はもちろん浮かぶのだが、暴力が外に向かったときの「巻き添えの量」が桁外れだ。ここはやはり「爆薬」と呼ぶほうが適切ではないか。

千葉真一が演じたのは、戦後派やくざの大友勝利だった。テキ屋の元締めを父親に持つ勝利は、旧世代の慣習や制度を意に介さない。「旨いメシ食うて、マブいスケ抱くのが一番ええに決まっとろうが」とうそぶき、障害があれば迷わず叩きつぶして前に進む。

いや、彼の行動は合理主義では説明がつかない。花柄の赤い開襟シャツに革の上着。カンカン帽とレイバンのサングラスという組み合わせ。下品で粗暴で凶悪なことはいうまでもないが、なにしろこの悪党には「抑制」という観念がひとかけらも存在しないのだ。

映画の主役というべき山中正治(北大路欣也)が、ひたすら「情念の凝縮」に向かうのとは対照的に、大友勝利はむやみやたらに弾け、野放図に暴力衝動をまき散らす。なかでも強烈なのは、敵対する組織のチンピラ光男(川谷拓三)をモーターボートで沖の小島に連れ出し、凄惨なリンチを加える場面だ。「水、飲ましてください」と懇願する光男をロープでつなぎ、疾駆するボートから海に放り込んで「好きなだけ飲めや」と哄笑する場面も凄いが、木の枝に吊るした光男を何度も何度も銃の標的にする場面の嗜虐性は、「グッドフェローズ」のジョー・ペシをしのぐ凄まじさだ。いまでこそようやく見慣れてきたが、最初に映画館で見たとき、私は画面を正視できないほどの衝撃を受けた。よくぞやったり、千葉真一。あの青天井ともいうべき凶暴さは他の追随を許さない。

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仁義なき戦い 広島死闘篇

監督:深作欣二
脚本:笠原和夫
出演:菅原文太、北大路欣也、千葉真一、梶芽衣子、山城新伍、成田三樹夫、名和宏、小池朝雄、遠藤辰雄、川谷拓三、室田日出男、小松方正、加藤嘉、前田吟、金子信雄
1973年日本映画/1時間40分
販売:東映 発売元:東映ビデオ 価格:5040円(税込)

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■「沖縄やくざ戦争」の国頭正剛

仁義なき戦い 広島死闘篇」から3年。千葉真一はふたたび凄まじい狂犬に扮した。映画は「沖縄やくざ戦争」(1976)。題名が示すとおり、舞台はアメリカから日本に返還された直後の沖縄だ。

千葉真一は、国頭(くにがみ)正剛というやくざを演じている。国頭は、琉盛会という連合組織の理事長をつとめているが、役職にふさわしからぬ「歩く爆薬」だ。「ヤマト(本土)嫌い」を公言し、空手の技を使って気に染まぬ人や物をかったぱしから壊してまわる彼は、弟分の中里英雄(松方弘樹)にしばしばたしなめられている。が、中里も気性は激しい。組織内部の軋轢は高まる。武器が米軍からおびただしく流出することも手伝って、内部抗争は激化の一途をたどる。

国頭は、しだいに組織から浮き上がる。浮き上がるほどに、彼の行動は凶暴化していく。わけても強烈なのは、本土から先乗りしてきた旭組の工藤一男(曽根晴美)を車で轢殺するシーンだ。ホテルの前で襲撃に出た国頭は、仰向けに倒れた工藤の身体の上で、車を繰り返し前進後退させる。もちろん工藤はスルメになる。あまりの残虐さが荒唐無稽に映り、思わず笑い出してしまいそうなアクションだ。

と書けばお察しのとおり、千葉の扮する国頭は本来の意味での悪党ではない。内部分裂の絵図を引くのは、もうひとりの理事長の腹心を務める翁長信康(成田三樹夫)という人物だが、まあ、そのあたりの事情は映画を見れば中学生でもわかる。ただ、単細胞ゆえに凶暴さをエスカレートさせていく国頭の無意識過剰ぶりはやはり眼を惹く。「千葉=歩く爆薬」のイメージは「沖縄やくざ戦争」で完全に定着したといってよいだろう。

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沖縄やくざ戦争

監督:中島貞夫
脚本:高田宏治、神波史男
出演:松方弘樹、千葉真一、渡瀬恒彦、曽根晴美、室田日出男、地井武男、成田三樹夫、尾藤イサオ、梅宮辰夫
1976年日本映画/1時間36分
販売:東映 発売元:東映ビデオ 価格:4725円(税込)

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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