レオーネ映画の極悪ガンマン : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム

第4回:レオーネ映画の極悪ガンマン

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。第4回は、セルジオ・レオーネの二大西部劇で強烈な印象を残した極悪ガンマンを比べてみたい。

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レオーネ映画は悪党面の一大見本市だ。ジャン・マリア・ボロンテ、ジャック・イーラム、ウッディ・ストロード、アル・マロック……名前を並べるだけでも思わず笑い出してしまいそうなほど凄まじい悪党面が、映画の冒頭からつぎつぎと登場する。

わけても強烈なのは、「続・夕陽のガンマン」(1966)でエンジェル・アイズに扮したリー・バン・クリーフと、「ウエスタン」(1968)でフランクを演じたヘンリー・フォンダだろう。公開当時、バン・クリーフは41歳、フォンダは63歳。歳の差こそあれ、ふたりの冷酷非情ぶりは映画史上に黒々と足跡を残す。では、両者の見どころを探ってみることにしよう。

■「続・夕陽のガンマン」のエンジェル・アイズ

画像1(C)2008 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc.
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リー・バン・クリーフの映画デビューは「真昼の決闘」(1952)だった。映画の冒頭、悪党の親玉フランク・ミラー(イアン・マクドナルド)を駅で迎える無口な子分のひとりに扮したのが27歳の彼だ。

このときバン・クリーフは、「台詞を増やそうか」と持ちかけたフレッド・ジンネマン監督の提案を断っている。「ひと言も喋らないほうがいい。喋るとキャラクターが台なしになる」というのが彼の考えだった。

続・夕陽のガンマン」でも、バン・クリーフの扮する賞金稼ぎは口数が少ない。ご存じのとおり、この映画の原題は「いい奴、悪い奴、汚い奴」というのだが、「悪い奴」に当てはまるのがバン・クリーフの演じるエンジェル・アイズだ。「汚い奴」のイーライ・ウォラックが饒舌で、「いい奴」のクリント・イーストウッドが辛辣な捨て台詞をつぶやくこともあって、エンジェル・アイズの寡黙と冷血はいよいよ際立つ。舞台は南北戦争終結間際の1860年代初頭。3人の賞金稼ぎは、南軍の隠し金20万ドルを追い求め、それぞれ相手を出し抜こうと考えている。

エンジェル・アイズは、銭さえ受け取れば請け負った仕事をかならず遂行する殺し屋だ。殺されそうになった男が「2倍出すから助けてくれ」と嘆願すると、その金を受け取ったあとで男をあっさり殺し、なおかつ、最初の依頼人も手にかけてしまう。「先方からも銭を受け取ったのだから」という理由は、「天使の瞳」という名前ともども、強烈なブラックユーモアだ。そういえばこの「天使」には、右手中指の先端が欠けていた。あれにも、なにかいわくがあったのだろうか。

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続・夕陽のガンマン

英題:The Good, the Bad and the Ugly
監督:セルジオ・レオーネ
出演:クリント・イーストウッド、リー・バン・クリーフ、イーライ・ウォラック
1966年イタリア=スペイン=西ドイツ合作/2時間41分
発売元:20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン
価格:1890円(税込)発売中

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■「ウエスタン」のフランク

画像3COPYRIGHT(C)1968 BY PARAMOUNT
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「ぜひ一度お会いしたい」という連絡をレオーネから受けたとき、ヘンリー・フォンダは茶色のコンタクトレンズを嵌め、わざと髭を伸ばして約束の場所へ赴いたそうだ。手紙に「極悪非道のガンマン役をお願いしたい」という一文が添えられていたからだ。

フォンダはそのとき60代になっていた。24歳年下のレオーネは、フォンダの顔を見るなりいった。「コンタクトレンズを外して、髭を剃ってください。私が求めているのは、青い瞳のヘンリー・フォンダだ」

かくて、フォンダは「ウエスタン」の極悪拳銃魔フランクを演じることになった。フランクは鉄道会社の手先となって地上げを行い、名前を聞かれたというだけの理由で、幼い子供まで至近距離から撃ち殺す。彼にからむのは、ハーモニカを手放さない名無し男(チャールズ・ブロンソン)と、盗賊の頭目シャイエンヌ(ジェイソン・ロバーズ)のふたり。「続・夕陽のガンマン」と同様、ひと癖もふた癖もある彼らは、三者三様の思惑を胸に秘めているらしい。

いずれにせよ、「怒りの葡萄」(1940)や「十二人の怒れる男」(1957)で物静かに不正と戦っていたフォンダは、もはや見当たらない。そこにいるのは、もみあげを長く伸ばし、青い瞳に冷酷な光を浮かべ、自分が殺した男の妻になるはずだったジル(クラウディア・カルディナーレ)をベッドでしつこくいたぶる悪辣で老獪な殺し屋だ。

従来のセルフイメージを大きく覆すこの役を、フォンダは楽しげに演じている。驚くべきは、60代とは思えぬほど美しい身体の線と、実は根っからの悪人だったのかと思わせるほどの人相の悪さだ。フォンダを「清廉なヒーロー」と思い込んでいたアメリカ人観客は、これを見て腰を抜かした。世界中でヒットした「ウエスタン」が唯一アメリカでは当たらなかったのも、当然といえば当然か。

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ウエスタン スペシャル・コレクターズ・エディション

原題:Once Upon a Time in the West
監督:セルジオ・レオーネ
出演:チャールズ・ブロンソン、クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェーソン・ロバーズ
1968年イタリア=アメリカ合作/2時間55分
発売元:パラマウントジャパン
価格:2625円(税込)発売中

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ガイド

芝山幹郎 映画評論家/翻訳家の芝山幹郎氏が、魅力的な悪党の出ている名作・傑作を毎月2本紹介します。

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