マックス・ケイディ2本立て : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム

第2回:ふたりのマックス・ケイディ

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。第2回の悪党は、あのマックス・ケイディだ。

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ミッチャムか、デ・ニーロか。不気味なストーカーを演じさせたら、ふたりの右に出る役者はまずいない。ミッチャムには「狩人の夜」があった。デ・ニーロには「キング・オブ・コメディ」があった。その先に造型されたのが「恐怖の岬」(62)と「ケープ・フィアー」(91)だ。後者が前者のリメイクであることを知らぬ者はいない。悪党の名は、ともにマックス・ケイディ。では、映画史上に残るふたりの偏執狂を比較してみよう。

■「恐怖の岬」のマックス・ケイディ

“天性の野獣”ロバート・ミッチャム(右)“天性の野獣”ロバート・ミッチャム(右)Photo:Album/アフロ[拡大画像]

J・リー・トンプソンを凡庸な監督と呼んでも罰は当たらないはずだが、「恐怖の岬」を凡庸な映画と呼べば罰が当たる。最大の理由は、ロバート・ミッチャムがマックス・ケイディを演じていることだ。

ケイディは水陸両棲の獣だ。8年前、彼はボルティモアで投獄された。弁護士サム・ボーデン(グレゴリー・ペック)の証言が不利に働いたらしい。台詞でも述べられるが、ケイディは「根に持つ男」だ。獄中で法を学び、復讐を誓った。標的には、ボーデン本人のみならず「大切な」妻と娘も含まれる。

毒蛇は急がない、という格言はケイディにぴたりと当てはまる。ケイディは慌てない。パナマ帽をちょっとあみだにかぶり、太い葉巻をくゆらせてゆっくりと歩き、考えの読みづらい「トカゲの眼」を据えて、ボーデン一家をじわじわと追いつめる。不気味だ。

若き日のミッチャムは、ホーボーさながら各地を転々とし、ボクサーとしてリングに立っていた。「恐怖の岬」では、彼が上半身を露出させる場面が何度もある。滝本誠が「たじろぐほどの直立男根」と呼んだあの肉体には、過去の来歴が染みついている。黒白の画面だというのに、水に濡れると艶を放ち、女に迫ると体臭さえ感じさせるのだから、あれはやはり演技では作れない肉体だった。つまり、エロスなきセックスと笑いなき暴力。にもかかわらず、ミッチャムは色っぽく、ミッチャムはおかしい。映画倫理規定のきびしかった時代という制約さえ、彼の不気味さをむしろ際立たせている。

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画像2

恐怖の岬

原題:Cape Fear
監督:J・リー・トンプソン
出演:グレゴリー・ペック、ロバート・ミッチャム、ポリー・バーゲン
1962年アメリカ映画/1時間45分
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 価格:1500円(税込)
ユニバーサル・セレクション キャンペーン2008 第7弾

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■「ケープ・フィアー」のマックス・ケイディ

自らを極限まで追いつめたデ・ニーロ自らを極限まで追いつめたデ・ニーロ(C)1991 Universal Studios.
and Amblin Entertainment,Inc.
All Rights Reserved.
[拡大画像]

恐怖の岬」が公開されて約30年後、マーティン・スコセッシはそのリメイクに挑んだ。シネマスコープの採用も自身初めてだ。ボーデン弁護士にはニック・ノルティが、ケイディにはロバート・デ・ニーロが扮した。話の大筋や音楽の印象は踏襲されている。

が、映画の感触は大きく異なる。「ケープ・フィアー」は良くも悪くも非常に人工的な映画だ。ツボにはまって観客の脳髄を直撃するところがある一方で、作為が目立って思わず苦笑を招いてしまうところもある。

最大のちがいは、ボーデン一家を機能不全家族に設定したことだ。狡猾で不実な夫と神経症的な妻、さらには性的好奇心の強い娘。復讐鬼ケイディの付け入る隙は十分にある。

加えてデ・ニーロの役作りが派手だ。筋骨隆々の上半身(体脂肪率を3パーセントに絞ったらしい)は宗教的な刺青(野菜の汁で描いたそうだ)で埋め尽くされている。南部訛りはあくどくて、歯並びも異様に悪い(5000ドルを払ってわざとがたがたにし、撮影終了後に2万ドルで矯正してもらったという)。

いいかえれば、デ・ニーロはミッチャムの亡霊を強く意識していた。満面のニタニタ笑いも、カツラをかぶった女装も、ジープの車体の下にぶら下がる荒技も、彼特有のメソッド芝居を極限まで追いつめたものではないか。「天性の野獣」ミッチャムに対抗するには、この方法しかなかったのだ。たぶんデ・ニーロは、スコセッシ以上に前作を恐れていた。

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画像4

ケープ・フィアー

原題:Cape Fear
監督:マーティン・スコセッシ
出演:ロバート・デ・ニーロ、ニック・ノルティ、ジェシカ・ラング
1991年アメリカ映画/2時間08分
発売元:ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン 価格:1500円(税込)
発売日:2009年3月12日 ユニバーサル・セレクション キャンペーン2009 第2弾

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