図太くて危ない「悪徳警官」映画2本立て : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム:芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル - 第14回

2010年1月29日更新

第14回:図太くて危ない「悪徳警官」映画2本立て

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。今回は悪徳警官の行状をつぶさに描き出した2本の映画を選び、彼らの横暴と非道に照明を当ててみたい。

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「飲ませろ抱かせろ」は当たり前。賄賂を取ったり、没収した麻薬をポケットに入れたりするのも日常茶飯事。リンチ同然の取り調べは平気だし、場合によっては、犯罪組織の元締めを襲って利権や資産を強奪することも厭わない。

とまあそんなわけで、警察という特権的組織の力を悪用すれば、警官は相当ひどい行動を重ねることができる。ましてや映画となれば、悪徳警官の跳梁跋扈はいよいよ派手なものとなる。なかでも映画史に燦然と輝くのは「県警対組織暴力」の久能徳松(菅原文太)と「トレーニング・デイ」のアロンゾ・ハリス(デンゼル・ワシントン)だろう。ふたりの横暴は、どこまで昂進するのか。果たしてふたりは、平穏な晩年を迎えることができるのだろうか。

■「県警対組織暴力」の久能徳松

仁義なき戦い」シリーズの直後とあって、脚本の笠原和夫や監督の深作欣二には脂が乗り切っている。もちろん、出演者の菅原文太松方弘樹も絶好調の時期だ。そんな人たちが力を合わせて撮った「県警対組織暴力」であれば、つまらないわけがない。

舞台は倉島市という中国地方の架空の土地だ。時代は昭和40年前後。文太が演じる久能徳松という叩き上げの刑事は、大原組の若衆頭・広谷(松方弘樹)と癒着している。広谷は、対立する勢力の川手(成田三樹夫)と土地がらみの利権を争っているさなかだ。

久能は冒頭から飛ばす。チンピラを脅して高価なライターを取り上げたり、広谷に接待を受けたりするのは序の口で、川手の子分の松井(川谷拓三)を取り調べるときなどは、全裸にひん剥いたあとで殴る蹴るの暴行を加え、マル秘情報をすっかり吐かせる始末だ。

ただし、久能の生活は貧しい。妻子が出ていったあとはおんぼろアパートにひとり暮らしで、広谷が大原組の2代目を継いでくれることを本気で願っている。そもそも久能には、自首してきた広谷の侠気に惚れて殺人罪を見逃してやった過去がある。

そう、久能は根っからの悪党ではない。腐ってはいるものの、暴力団壊滅を旗印に倉島市へ乗り込んでくる県警エリート(梅宮辰夫)の冷徹非情に比べれば、お人好しの哀愁中年に思えてくるくらいだ。

というわけで、映画の終盤には意外な展開が待っている。悪徳警官の定義がしだいにずれていく過程も面白いが、映画を見終えて脳裡に残るのは、やはり「(警察に入ったのは)ピストル持ちたかったからじゃ」と放言して酒をあおる久能の姿だろう。さすがは笠原和夫。やくざも警察官も、もとをただせば一匹の野良犬と見なす彼のアナーキーな体質は、こういう場面になると俄然精彩を放ちはじめる。

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県警対組織暴力

監督:深作欣二
脚本:笠原和夫
出演:菅原文太松方弘樹梅宮辰夫成田三樹夫山城新伍川谷拓三金子信雄
1975年日本映画/1時間34分
販売・発売/東映 東映ビデオ

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■「トレーニング・デイ」のアロンゾ・ハリス

画像2 (C) 2001 Warner Bros. Entertainment Inc.
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アロンゾ・ハリス(デンゼル・ワシントン)はLAPDの潜入捜査官だ。ドラッグの売人や情報屋をアゴで使い、改造した79年型のシボレー・モンテカルロで悠然と街を流す姿は、裏社会の大物に見えなくもない。

そんなアロンゾのチームに入ろうとするのが交通課から転属してきたジェイク・ホイト(イーサン・ホーク)だ。ジェイクは若い。社会正義を信じ、警察官は職務に忠誠を誓うべきだと考えている。アロンゾはそんなジェイクをテストする。ロサンゼルスの危険地帯に同行させ、麻薬捜査官としての適性が備わっているかどうかを確かめようとするのだ。

ところが、アロンゾの悪辣ぶりはいきなり全開される。押収したドラッグをジェイクに吸わせたり、麻薬密売組織との癒着ぶりを露骨に見せつけたりする一方で、「狼を捕えたければ自分も狼になれ」と公言してはばからない。ジェイクは当惑する。組織の大物から400万ドルもの現金を没収し、部下たちと「手数料」をはねたあげく大物を射殺する場面に遭遇したりすると、激しく混乱してしまう。ただ、アロンゾにはもっと危ない秘密があった。金や麻薬を横領し、無闇やたらに銃を乱射する彼は、背後から迫る足音に怯えている。

デンゼル・ワシントンは、嬉々としてこの悪徳警官を演じる。眼に魔性の光を宿らせ、白い歯を剥き出しにして不気味な笑いを浮かべ、テスト中の若い警官を休むことなく翻弄しつづけるのだ。映画終盤の失速と辻褄合わせは惜しまれるが、前半部、アロンゾの悪辣ぶりが万華鏡のように映し出されるシーンは、繰り返し見ても飽きることがない。

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トレーニング・デイ

原題:Training Day
監督:アントワン・フークア
脚本:デビッド・エアー
出演:デンゼル・ワシントンイーサン・ホークスヌープ・ドッグ
2001年アメリカ映画/2時間2分
発売元:ワーナー・ホーム・ビデオ
価格:2500円(税抜) DVD発売中

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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