破壊的ファム・ファタル2本立て : 芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル

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コラム:芝山幹郎 悪党のいるダブル・ビル - 第12回

2009年11月25日更新

第12回:破壊的ファム・ファタル2本立て

面白い映画に悪党が出ているとは限らないが、魅力的な悪党の出ている映画は、まずまちがいなく面白い。これは格言に近い。私の経験からいってもほぼ正しい。

悪党は、負の感情を解き放つことが許されている。悪党は、モラルに縛られない。いいかえれば、魅力的な悪党は快楽的だ。魅力的な悪党は知性が高い。そんな悪党の出ている映画を探してみよう。昔ながらの「2本立て=ダブル・ビル」形式を借りて、幻の映画館で悪党と悪党を競わせてみよう。今回は、いわゆる「ファム・ファタル」の概念を一変させたふたりの悪女にスポットライトを当ててみたい。

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千鳥格子のスーツは要らない。ベレー帽などかぶるわけがない。代わりに身につけるのは、体の線がはっきりと出たパステルカラーのワンピースだ。あるいは、〈フレデリクス・オブ・ハリウッド〉で売っている危ない下着だ。「誘う女」のスザーンも「蜘蛛女」のモナも、男を食い散らして顧みない一種の怪獣と呼んでよいだろう。目的のためには手段を選ばず、セックスと暴力は、なによりも使い勝手のよい武器となる。ふたりの新型悪女は、どのように男を蝕み、どのように男を破壊したのか。脳裡にこびりつくようなプロセスを、あらためて思い起こしてみよう。

■「誘う女」のスザーン

邪悪なお天気お姉さんスザーン(ニコール・キッドマン) 邪悪なお天気お姉さんスザーン(ニコール・キッドマン) Photo:Album/アフロ [拡大画像]

「テレビに出なけりゃ、アメリカじゃカスよ」と「誘う女」の主人公スザーン・マレット(ニコール・キッドマン)は言い放つ。スザーンはニューハンプシャー州の小さな町に住んでいる。子供のころから彼女の夢は、いやオブセッションは、テレビに出ることだった。その執念は、長じてのちいよいよ燃え盛る。目的を果たすためには手段など選ぶまい、とさえ彼女は決意している。

そんなスザーンが、地元のイタリア料理屋の息子ラリー(マット・ディロン)と結婚する。ラリーはスザーンに岡っ惚れだが、マフィアとつながる父親は渋面を隠さない。テレビごっこになど見切りをつけてさっさと店を継げ、というのが父親の本音だ。

が、スザーンはメディア・ジャンキーだ。中毒患者に薬は効かない。助言は逆効果になるし、行く手を阻まれればなにがなんでも排除しようとする。実際、スザーンは「夫の排除」を真剣に考えはじめる。

そこで駒にされるのが、地域のちゃちなテレビ番組で知り合った愚かな高校生3人組である。ソフトクリームでできたバービー人形のようなスザーンの奇妙な色気の前に、高校生たちはひとたまりもない。しかも彼女は進んで肉体を提供し、ジミー(ホアキン・フェニックス)という少年を思いどおりに操る。

その先に起こる事件は、実をいうと映画の序盤で早々と説明されている。以後はフラッシュバックの連鎖だ。ただ、身体を張ったスザーンの悪だくみが相当におかしいので、観客は退屈しない。むしろ逆に、「テレビ以外に世界は存在しない」とんでもない女の肖像が、退屈なスモールタウンを背景にくっきりとあぶりだされてくる。パステルカラーやチェック柄を生かした衣裳の数々も、いびつな魔女の輪郭を際立たせる役割を果たしている。

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画像2

誘う女

原題:To Die For
監督:ガス・バン・サント
脚本:バック・ヘンリー
出演:ニコール・キッドマンマット・ディロンホアキン・フェニックスケイシー・アフレックイレーナ・ダグラスアリソン・フォランドダン・ヘダヤカートウッド・スミス
1995年アメリカ映画/1時間46分

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■「蜘蛛女」のモナ

セクシーで暴力的な怪獣モナ(レナ・オリン) セクシーで暴力的な怪獣モナ(レナ・オリン) Photo:Album/アフロ [拡大画像]

蜘蛛女」の話はややこしい。というよりも説明がくどくて、1行で片付く話にほぼ5行近くが費やされる。理由は、フィルム・ノワールへのウィンクが露骨だからだ。もちろん、このウィンクはコインの裏表だ。ある部分ではなかなかいい味を出すのに、別の部分では映画を失速させてしまうのが惜しい。

ノワール仕立てとなれば、探偵か刑事を出さないわけにはいかない。この映画に出てくるのはジャック・グリマルディ(ゲイリー・オールドマン)という腐敗刑事だ。安月給のジャックは地元の犯罪組織から賄賂を受け取り、庭の片隅にせっせと溜め込んでいる。

ところが、そこへモナ・デマルコフ(レナ・オリン)という女ギャングが現れる。組織と対立するモナは、ジャックをたらしこんで事態を優位に導こうとする。だらしないジャックは金と色に振りまわされ、蟻地獄のような状況に追い込まれていく。くどいのはその辺の語りなのだが、モナの造型になると「蜘蛛女」は題名どおりの妖しさと力量を示す。

モナはセクシーで暴力的な怪獣だ。タイトな黒のワンピースから危ない下着を覗かせ、闇のなかで口紅を輝かせてジャックを誘惑にかかる。手錠をかけられながら両脚で彼の首を締めつけて高笑いを響かせ、セックスをするときも「義手はつけたまま? それとも外す?」などと問いかける。

となると、ジャックは破滅への道をひた走るしかない。女流脚本家のヒラリー・ヘンキンは、愚かで哀れな彼の姿を舌なめずりするように描き出す。それにしても、「蜘蛛女」はモナあってこその映画だ。夢の女から悪夢の女まではほんのひと息だし、悪夢の女から女ターミネーターまでもあっという間の距離だ。これほど豪快に「変形」されたファム・ファタルは他に見当たらないのではないか。

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画像4

蜘蛛女

原題:Romeo is Bleeding
監督:ピーター・メダック
脚本:ヒラリー・ヘンキン
出演:ゲイリー・オールドマンレナ・オリンアナベラ・シオラロイ・シャイダージュリエット・ルイストム・ウェイツジェームズ・クロムウェル
1994年アメリカ映画/1時間50分

[筆者紹介]

芝山幹郎

芝山幹郎(しばやま・みきお)。48年金沢市生まれ。東京大学仏文科卒。映画やスポーツに関する評論のほか、翻訳家としても活躍。著書に「映画は待ってくれる」「映画一日一本」「アメリカ野球主義」「大リーグ二階席」「アメリカ映画風雲録」、訳書にキャサリン・ヘプバーン「Me――キャサリン・ヘプバーン自伝」、スティーブン・キング「ニードフル・シングス」「不眠症」などがある。

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