映画「立候補」 : 佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代

コラム:佐々木俊尚 ドキュメンタリーの時代 - 第5回

2013年7月8日更新

第5回:映画「立候補」

この映画はもともと、「努力してもどうにもならない夢を追いかけている人たち」を描こうという狙いから制作されたという。絶対にかなわない夢を、人からバカにされながらも本気で願っている夢追い人たちだ。それは徳川埋蔵金を探している人だったり、UFOを信じている人だったりする。そしてまたそういう人たちの一変種として、選挙の泡沫候補もいる。たとえば2007年の東京都知事選に出て、過激な政見放送が話題になった外山恒一は有権者に対して、「もはや政府転覆しかない」と呼びかけた。政府転覆……どうやったらそんなことができるのか。それを外山に聞いてみたい、と藤岡利允監督とプロデューサー兼カメラマンの木野内哲也は考えたのである。

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宇宙人やスーパーマンの恰好をし、変なポーズで「スマイルッ!」と叫ぶので有名なマック赤坂にも、制作者たちは電話した。「出演料は20分で30万円」というマックに「お願いだからノーギャラで」と請い、「夢追い人」という制作意図を伝えた。「出演するのは私だけなのか」とマックは問うた。「ほかにも羽柴秀吉さんとか」「羽柴さんが出るんならオッケーだ」

羽柴秀吉というのは、青森の企業経営者で各地の選挙に出馬している泡沫候補、三上誠三のことだ。羽柴もマックも、2011年に大阪府知事選挙に立候補することを計画していた。同時におこなわれていた大阪市長選で、維新の会の橋下徹と現職の平松邦夫が激しい戦いを展開していたのに対比させ、府知事選でマックと羽柴という「もうひとつの(でも無意味な)戦い」という構図が描けないかと考えたのだった。ただ羽柴は結局、がんの手術のために出馬を断念している。

そうして作られたこの映画は、たしかにマック赤坂の道化的演技の裏側にある孤独や怒りを、見事に描き出している。約束された敗北を人はどう引きうけるのかということだ。

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しかし一方で本作は、制作者の当初の狙いとはまったく異なる「後味の悪さ」を引き出している。

この映画は公開される前に各地で試写がおこなわれたが、会場によって著しく異なる反応があったという。「この映画笑っていいの?それとも黙ってみるものなの?」と観客たちは戸惑い、ある会場ではつねに笑いが上がり、ある会場では沈黙が支配し、ある会場では「こんなバカな連中に立候補させていいのか」と怒り出す人までいた。

この戸惑いや後味の悪さは、泡沫候補という存在に対する私たちの戸惑いでもある。彼らはたしかに、最初から敗北を約束されている道化である。しかしだからといって、いまの既存の大政党の有力候補たちは、それほどまでに立派な政治家なのか? 実は道化の泡沫候補たちと、たいして変わらない存在なのではないか?

宮崎県知事に当選した東国原英夫はお笑いタレント時代に、淫行事件や傷害事件を何度も引き起こし、立候補した際は泡沫扱いされていた。しかし彼は当選後、他の政治家以上に知事の仕事をきちんとこなしたことで名声を高めた。これは元タレント弁護士だった橋下徹も同じだ。

だったらマック赤坂や羽柴秀吉がうっかり当選したあかつきに、立派な政治家へと変貌する可能性がないともいえないだろう。

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一方で生粋の政治家二世や官僚出身の候補でも、得体の知れない言動をくり返して評判を落とす人はいまの政治状況の中では無数に現れてきている。彼らはマックや羽柴や「政府転覆」の外山と何が違うというのか?

地盤看板を背負い、利益誘導してどぶ板選挙で勝つという戦略が、国政選挙では非常に難しくなってきている。風が吹けば小泉チルドレンや小沢チルドレンが大量に当選し、逆風が吹けばそれら候補者は塵芥のように落選して消えて行く。そういう風だよりの選挙の中で、「目立てば勝ち」と過激な言動ばかりをくり返す政治家が増えているのが現実だ。

政策本位の選挙の実現が求められているが、その道は遙かに遠い。一方で古い利益誘導選挙が終焉を迎え、「何を基準に候補者を選ぶのか」という評価軸が宙ぶらりんになっている。そういう現状の中で、誰も泡沫候補を笑うことはできないし、彼らに対して「不謹慎だ」と怒ることもできないだろう。彼らを笑い、彼らをなじることは、私たち有権者が自分たちを笑い、なじることと同一である。

その意味で、この映画は本当に怖い政治的な映画である。

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映画「立候補」
ポレポレ東中野ほかにて公開中
作品情報

[筆者紹介]

佐々木俊尚

佐々木俊尚(ささき・としなお)。1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部政治学科中退。毎日新聞社社会部、月刊アスキー編集部を経て、2003年に独立。以降フリージャーナリストとして活動。2011年、著書「電子書籍の衝撃」で大川出版賞を受賞。近著に「レイヤー化する世界―テクノロジーとの共犯関係が始まる」(NHK出版新書)など。

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