コラム:メイキング・オブ・クラウドファンディング - 第13回

2018年5月8日更新

メイキング・オブ・クラウドファンディング

「リバースダイアリー」 映画の求道者・園田新監督と七人のパブリシストの挑戦

5月26日より渋谷ユーロスペースで公開される映画「リバースダイアリー」は、映画作家・園田新が“映画の新しい形”を追求する野心作です。2015年にMotion Galleryにてクラウドファンディングを行った本作は、2年の歳月を経てついに完成し、この度待望の劇場公開となります。“参加型の映画”という基本コンセプトを掲げ、役者やスタッフ、サポーターやエキストラも含めて、多くの人々を巻き込んで映画は制作されました。今年5月末の公開に向けて、現在は全国公開を目指す第2弾のクラウドファンディングを実施中です。
 クラウドファンディングとの出会いから、独創的な映画作りの方法論、自身が手がける配給・宣伝ワークショップの意義、そして映画宣伝の新たな広がりと可能性について、園田監督にお話を伺いました。また園田監督の配給・宣伝ワークショップ参加者の中から7名の新米パブリシストも交えて、映画宣伝のおもしろさと難しさを伺いました。

一番右端の園田新監督から時計周りに、のりさん、ポニーさん、SiRさん、筆者、はなえさん、宮島さん、平野さん、GOJIさん
一番右端の園田新監督から時計周りに、のりさん、ポニーさん、SiRさん、筆者、はなえさん、宮島さん、平野さん、GOJIさん

■最終的に責任を持たないといけないのは監督なので、だったら自分で責任の持てるものをやろうと思った

大高 僕と園田さんが知り合ったのって7年前くらいですよね。覚えていますか?

園田 2011年の函館イルミナシオン映画祭で、大高さんはMotion Galleryを始めたばかりの頃ですよね。 僕はその年にシナリオでグランプリを頂いて、その時の打ち上げで大高さんにお会いしました。クラウドファンディングって何だろう?と思いながらお話をしたのを覚えています。

大高 あの時はMotion Galleryを始めてまだ半年経つか経たないかくらいの時期で、日本ではほぼ誰もクラウドファンディングを知らない状況でした。そんなかなり初期からの知り合いである園田さんと、今こうしてご一緒しているのが、個人的にもすごく感慨深いです。「リバースダイアリー」はどういった経緯で制作をしたのですか?

園田 元々自分が7、8年ずっと抱えていて、もう十何稿も重ねていた脚本があって、それをなんとか形にしたという思いがありました。あとちょうどその前くらいに、商業作品で進めていた企画が残念ながら流れてしまったこともありました。あんなに時間をかけたのに成果が無いということに、強い憤りと人間不信というか、プロデューサーと呼ばれる人たちの責任感の無さが嫌になりましたね。最終的に責任を持たないといけないのは監督なので、だったら自分で責任の持てるものをやろうと思ったんです。映画作家としては、とにかく作品を作らないといけないので、「リバースダイアリー」の制作が始まりました。

大高 お金も含めて、全部自分でハンドルしようという考えが、クラウドファンディングにつながったと。

園田 そうですね。世間的にもクラウドファンディングがどんどん広がっていった時期だったし、良い機会だと思ってやってみました。 それと、作品をダイレクトにお客さんに届けるということをやってみたかったんです。映画、とくに商業作品の場合、色々な人の思惑が入ってくるじゃないですか。その色々なものの中で妥協しながら作るのではなくて、もっと純粋な方法でものが作れる時代なんじゃないかと感じました。それで2014年の年末に大高さんに相談をして、2015年の年明けからクラウドファンディングとオーディションを行いました。制作はクラウドファンディングをやりながら進めていって、途中でディザー予告を公開して、最後の呼び込みをしました。クラウドファンディングは目標額を達成して、撮影も無事に終わり、2016年5月に関係者向けの試写会を行いました。

大高 そこから劇場公開まで、2年もの時間が空いた理由はなんですか?

園田 まず2015年の撮影から完成まで1年かかったのは、単純にお金を使い果たしてしまって働かなければいけない状況になったからです。働いていたから、なかなか編集が進まなかったというのがありました。2016年に試写会をしてからのその後約1年間は、映画祭への出品活動をしました。だけどどこの映画祭にも通らなかった。自分がこれだけお金を費やして、みんなで一生懸命作ったものが、あまり価値が無いんじゃないか、これは人に届くものではないんじゃないかと、悶々としましたね。実は、映画の序盤の7分を切ってしまったほうが良くなる、というアイディアはあったんです。だけど、その7分の中には福岡まで出張して苦労して撮影したシーンや、手伝ってくれた人たちの思いなんかがあって、どうしても切れなかった。自分で全部ハンドリングしてるから、的確な判断ができなくなってしまったんです。でも「ここはみんなに謝ってでも、良くなる可能性があることをやってみよう」と思って、編集をやり直しました。

大高 編集をほかの人に頼むという発想はなかったのですか?

園田 なかったですね。理由としては、お金がかかるということと、あとはやっぱり自分がやったほうが早いからです。「リバースダイアリー」の編集は、カメラマンのトムの意見を反映したけど、それ以上の判断をする人がいなかった。そして僕自身が客観的な判断をするまでに、更に1年間を要しました。 問題の7分を切って、2017年の6月くらいに再編集版が完成しました。それから映画祭出品をしたら、どんどんいろんな映画祭から声が掛かるようになりました。Vimeoというサイトで映画を観てもらう状況にしていたんですけど、そこで再生率というのが統計で見られるんですね。最初のバージョンは、映画を最後まで観るてくれる人は全体のたった20%くらいだったんです。それが序盤の7分を切ったことによって、50%くらいに上がりました。ちゃんと映画を観てもらえるようになると、映画祭での評価も自然とついてきました。そうして劇場公開の後押しになる状況が出来たので、僕の最初の長編映画「Wiz/Out」を上映してくれたユーロスペースに、真っ先に持って行きました。

大高 Vimeoの話はすごい面白いですね。ハリウッドって、試写の後に関係者にアンケートとかを書かせて、それを基に再編集するっていう流れが出来上がってるらしいんですけど、それよりも手軽に出来るという感じがいいですね。海外の人にVimeoで観てもらうというのは一般的なんですか?

園田 そうですね。オンラインでプライベートリンクを渡して視聴してもらう、というスタイルが今の主流です。Vimeoでは映画がちゃんと観られたかどうかをチェックできるんですけど、そうすると、一度も再生されていないのに落選の連絡が来たりするんです。こっちは出品にお金払っているのに、ファイルを開きもしていないで落ちている。この現状に、どうなのかなと思いながらしばらくはやっていました。映画祭出品も最初は手探りだったので、やっぱり人の紹介やコネとかがないと観てもらうところまでは上がらないんだなと、結構勉強になりました。

大高 7分切ったことへの反応はいかがでしたか?

園田 その7分に含まれている人全員に謝罪をしました。「残念ですけど、そう判断されたのであれば仕方ありませんね」という感じでした。その人たちがいたから完成したということで、出演者の名前は残しています。でも自分がどれくらい苦労して撮ったかというのは、観る人にとっては関係ないことでもありますよね。

大高 そこは難しいところですよね、本当に。ばっさり行かなくちゃいけない時もあるけど、それとは別問題なところもありますしね。

園田 そうですね。客観的に、何度も何度も観て、切ると決めたんです。試写会から1年ほど何も動きがなかったので、その間キャストにも会いたくなかった。「どうなったんですか?」って絶対聞かれるから(笑)。

園田監督
園田監督

■ワークショップと映画作りがしっかりと継続的に動くことによって、新しい映画作りが続いていくのが理想

大高 無事に映画祭も出始めて、これから公開するというタイミングで、一般参加者が実際に配給・宣伝をするワークショップ「配給&宣伝ラボ」を始めましたよね?新しい取り組みを始めた訳や、それをやろうと思ったきっかけはなんですか?

園田 「リバースダイアリー」は、基本的にずっと僕が一人で進めてきたプロジェクトです。現場以外の準備や、撮影が終わってからのポストプロダクションも、ほとんど全て一人でやっています。そうすると、この映画を自分の映画だと思う人間が僕しかいないことになります。そういう状態で公開を迎えても、僕の周りの狭い範囲にしか波及しないんじゃないかという思いがありました。それだったら、この映画を自分の映画だと思う人間を一人でも増やすということが大切なんじゃないかと考えたんです。宣伝でもいろんな人を巻き込むというか。

大高 お金を払って配給会社にお願いするのではなくて、もっと関係人口的なのを増やしていって、みんなで盛り上げていこう、みたいな感じの方が面白いってことですか?

園田 そうですね。このプロジェクトを企画した時から、オールライツを持ちながらハンドリングをするということを考えていました。映画監督って商業作品に関わっても、ギャラ以外のロイヤリティは1.75%と言われていて、映画を1本監督しても全然儲からないんです。せっかく1本撮れても、次に向かえない。映画監督は、毎回単発の挑戦を続けることになってしまっています。企画から出口までを一貫して、なおかつ利益の循環が出来るような、作家個人が映画スタジオみたいな役割を担えるようなことを僕はコンセプトにしています。その第一弾がこの「リバースダイアリー」です。今は時代が変わってきて、クラウドファンディングもそうですけど、いろんなことを個人でもやれるようになってきています。僕自身の監督としての強みや特徴は、プロデュース力があるということで、それはほかの監督にはあまりないことだと思っています。だったら新しいスタイルの映画作家として、こういう形で映画のプロデュースごとやってしまう人がいてもいいんじゃないか、というのもありますね。

大高 それで宣伝・配給のワークショップを立ち上げたのですね。本日はワークショップに参加している7名の方にも来ていただいています。みなさん自己紹介と、参加しようと思った理由や、ワークショップで何を得たいかをお聞かせください。

のり 普段はIT業界で社内システムの構築をしています。元々映画が好きで、何か自分から発信していきたいと思っていました。何か学べるところがないか探していたら、園田監督のホームページを見つけました。社会人を10年近くやっている中で、会社で宣伝やマーケティングのようなこともやっているので、そういったことを生かせるんじゃないかと思い、参加しました。

ポニー 私はいつか自分でも映画を作りたいなと思っています。ちょっと配給とか自主製作に興味があるので参加しました。

SiR 普段はテレビ番組のディレクターをしております。宣伝会社の方が映画のリリースを持って売り込みに来られたこともあります。そのパブリシティを最終的に出すという部分をやってはいたんですけど、そこまでに至る映画の宣伝の仕組みを全然知らなかったので、そこを勉強して自分の仕事に生かそうと思って参加しました。あと「リバースダイアリー」の制作段階のサポーターだったので、自分が多少なりとも関わっている映画が世に出ていく応援をしたいと思っています。

はなえ 普段は映画とは全然関係のない仕事をしています。映画が好きで、観客以外の関わり方がしたいなと思って、配給・宣伝に興味を持ちました。大高さんが開講されていたpopcornスクールに参加して、このワークショップのことを大高さんのFacebook投稿で見ました。ケーススタディではなく、本物の作品を中心として配給・宣伝の実際を体験出来るということにすごく魅力を感じて、参加することにしました。

宮島 僕は大学3年生で、キャリアデザイン学を学んでいます。元々映画にはそんなに興味はなくて、 漫画が好きです。それで暇な時にNetflixでずっと映画を観ていたんですけど、漫画原作の映画があまり評価されていないことが悲しいと思いました。 だいたい漫画が映画化されると決まった時点で、ファンはもうディスり始めるんですけど、それは違うのではないかとも思いました。それがきっかけで映画の裏側に興味を持って、映画会社とか宣伝会社をいろいろ探してみたら、たまたまこのワークショップが出てきました。面白そうだなと思って参加しました。

平野 私は電子書籍系の仕事をしているんですけれど、シナリオライターになりたくて、シナリオライティングの勉強をしています。もっと上手くなるためにはいろんな経験をした方がいいと思いまして、映画の現場を知ったらト書きとかに活かせる気がして、園田監督のワークショップを受けさせて頂きました。先ほどちらっとお話に出た函館イルミナシオンに、私も出したいなと思っているので、園田監督にもっと密についていきたいと思っています。宣伝はあまり興味なかったんですけど、他のワークショップもすごく勉強になったので、とても面白い体験が出来そうだなと思い、参加しました。

GOJI 元々は園田監督のワークショップに参加した時に、映画に対する取り組み方がすごく論理的で腑に落ちるものがありました。周りの俳優志望の友達に「この人のワークショップ絶対行ってみろ」って何度も薦めたりして、それくらい僕も園田監督のファンです。映画に対する姿勢に好感が持てたので、この人についていきたいという思いがあって、参加しました。自分は今は静岡に住んでいて、「毎週静岡から高速バスで3時間かけて通うのどうかな」って相当迷ったんですけど、でも迷うくらいなら行くしかねぇ!って感じで。

大高 すごい。

GOJI このワークショップで最初に宣伝会社ブラウニーさんの講義を受けました。僕が石川県の「カナザワ映画祭」に行った時に、期待の新人監督賞を獲った「ハングマンズ・ノット」という映画の配給をやっていることを知ったんですね。映画の世界により深く入っていくと、こういうつながりが最終的にあるんだな…と。そこで、もっともっと映画の世界を知っていきたいなっていう思いもあって参加しました。

大高 GOJIさんは、小林勇貴監督の同級生だそうで?

GOJIそうです。地元が同じで、中学の時のクラスメイトでした。僕が大学生の頃、当時小林はFC2とかに動画を投稿していて、その時は「へえー、小林ってこんなことしてるんだー」みたいに思っただけでした。でも今では映画ファンの殆どが彼を認知していて驚きました。僕の人生の中で、影響を受けた監督が2人いて、一人目は園田監督。2人目が小林(勇貴)監督ですね。今まで映画はハリウッドであったり、億単位で金が掛かっているようなやつしか観てなかったけど、それからは単館上映というかミニシアター系にドハマりしました。

園田 今何人かの人が話していたワークショップというのは、一年半ぐらい前から始めた役者向けのものです。「リバースダイアリー」を作った時に、ワークショップ形式で毎週のように役者を集めて役作りをしていました。最初はメインキャストだけだったけど、サブキャストの人も受けたいという要望があって、一回やってみたんです。そしたら評判が良いし、僕もやってみて面白かったので、それが今でも続いています。そもそも映画作りで大切なものと必要なものは、単純にお金と人だと思います。お金はクラウドファンディングとかでも色々と出来るような時代になっているけど、人はいきなり急には集まらないと思うんですよね。映画に興味がある役者やスタッフや宣伝といった様々な人たちと繋がっていくという目的で、今はワークショップもやっています。

大高 じゃあ結構そういう仲間みたいのは増えてきていますか?

園田 そうですね。すごく多くなってますね。何か、監督が作品撮ってないときに小遣い稼ぎにやってるイメージあるじゃないですかワークショップって。

大高 そうですね、正直(笑)。

園田 小遣い稼ぎとかそういうものじゃなく、つまり僕がさっき言った小さな映画スタジオみたいな感じで映画活動していくというのを、ワークショップをひとつの事業として考えているんです。僕が映画を作ればそこに集まる人も増えるだろう、というような相乗効果も狙っています。ワークショップと映画作りが、それぞれしっかりと継続的に動くことによって、何か大手とは全然違う形の新しい映画作りが続いていけばいいと思っています。 そうやってひとつのブランディングが出来るんじゃないかというのが、僕の構想ではありますね。

左からはなえさん、宮島さん、GOJIさん
左からはなえさん、宮島さん、GOJIさん

筆者紹介

大高健志(おおたか・たけし)のコラム

大高健志(おおたか・たけし)。国内最大級のクラウドファンディングサイトMotionGalleryを運営。
外資系コンサルティングファーム入社後、東京藝術大学大学院に進学し映画を専攻。映画製作を学ぶ中で、クリエィティブと資金とのより良い関係性の構築の必要性を感じ、2011年にMotionGalleryを立ち上げた。

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