「恋におちたシェイクスピア」の監督が描く、インド版「 ロスト・イン・トランスレーション」 : FROM HOLLYWOOD CAFE

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コラム:FROM HOLLYWOOD CAFE - 第176回

2012年4月11日更新 小西未来

第176回:「恋におちたシェイクスピア」の監督が描く、インド版「 ロスト・イン・トランスレーション」

画像1 Photo: Ishika Mohan
Fox Searchlight
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最近、ふいに老後のことを考えることがある。まだまだ働き盛りとされている年齢だし、フリーなので定年があるわけでもないのだけれど、仕事がなくなったあとの――しかも、都合良く蓄えがそれなりにある――自分を夢想してしまうのだ。想像力が欠如しているため、ハワイでのんびり暮らす、というありきたりなイメージしか湧かないのだけれど、最近になって、インドという選択肢が増えた。きっかけは、「マリーゴールド・ホテル(仮:原題 The Best Exotic Marigold Hotel)」という映画を見たためだ。

「マリーゴールド・ホテル」は、定年を迎えたイギリスの男女を描くアンサンブル劇だ。それぞれ会社を辞めたり、夫に先立たれたりして、人生の岐路に立っている。彼らは偶然、インドで新たにオープンしたThe Best Exotic Marigold Hotelというホテルの広告を目にする。ホテルを改築したというインドの豪華リゾートは、異国情緒に溢れ、物価もずっと安い。かくして彼らはそれぞれの事情から、インドへの移住を決意することになる。

画像2 Photo: Ishika Mohan
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しかし、インドに到着するなり、現実は理想とかけ離れていることに気づく。夢は大きいけれど実際的な能力が欠如している若い経営者(「スラムドッグ$ミリオネア」のデブ・パテル)のせいで、ホテルの改修は終わっておらず、資金難で返金にも応じられない。かくして、悠々自適なリゾート生活の夢は崩れ、それぞれ自らの力で生き延びなくてはならなくなる、というストーリーだ。

人は年を取るにしたがって頑固になって、新しいことを学ばなくなるといわれるけれど、この映画に登場するキャラクターの大半もそのタイプだ。彼らはそれまでの人生で培ったスタイルなり考え方を、インドでも貫こうとする。でも、金もコネも語学力もない彼らに、そんな生活が許されるわけもなく、彼らが異文化に戸惑いながら、自己発見をしていくプロセスがユーモラスに描かれていく。喩えるならインド版「ロスト・イン・トランスレーション」、あるいは、複数のラブストーリーが描かれるので老人版「ラブ・アクチュアリー」と言えるかもしれない。監督は「恋におちたシェイクスピア」のジョン・マッデンだ。

画像3 Photo: Ishika Mohan
Fox Searchlight
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この映画の最大の魅力は、ジュディ・デンチトム・ウィルキンソンマギー・スミスビル・ナイといったイギリスを代表するベテラン俳優の競演だ。実際、ここまで演技派だけを集めた映画も珍しい。ハリウッド大作では出番が限られている名優の演技を、心ゆくまで堪能できるのだ。

映画そのものはとても軽やかで、重苦しさのかけらもない。それでも、経済的な理由から自国で豊かな老後を過ごすことができなくなった人たちが、外国に活路を見いだすというストーリー設定は、シビアな現実を反映している。高齢化社会の日本でこそ、ヒットしそうな予感がする。

「マリーゴールド・ホテル(仮:原題 The Best Exotic Marigold Hotel)」は、5月4日から全米で公開。日本公開は未定。

[筆者紹介]

小西未来

小西未来(こにし・みらい)。1971年生まれ。ゴールデングローブ賞を選考するハリウッド外国人記者協会(HFPA)に所属する、米LA在住のフィルムメイカー/映画ジャーナリスト。「ガール・クレイジー」(ジェン・バンブリィ著)、「ウォールフラワー」(スティーブン・チョボウスキー著)、「ピクサー流マネジメント術 天才集団はいかにしてヒットを生み出してきたのか」(エド・キャットマル著)などの翻訳を担当。2015年に日本酒ドキュメンタリー「カンパイ!世界が恋する日本酒」を監督、16年7月に日本公開を控える。

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