コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第40回

2013年7月12日更新

編集長コラム 映画は当たってナンボ

第40回:映画だってアベノミクス! 細野真宏氏に注目銘柄を教わった

当コラム、3年半ぶりの更新である。サボっていた理由は単純明快で、「誰にも催促されないから」。原稿と借金は、催促されないと回収できないものなのだ。

さて今回、催促もされてないのに突然新しいエントリを書き上げた理由は、久しぶりに細野真宏さんにお会いして、映画と株にまつわる面白い話を聞いてきたから。カリスマ受験講師であり、無類の映画ファンでもある細野氏は、最近、文藝春秋から「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる! 細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」という新書を刊行したばかり。

「ONE PIECE」? 「相棒」? どっちも東映配給作品じゃないの。何で東宝じゃないの? これは映画関係者じゃなくても気になるところ。そこで6月のある日、ご多忙中の細野氏を訪ね、事務所にお邪魔してきた。以下は、その時の模様をまとめたものである。

細野真宏氏
細野真宏氏

――細野さん、お久しぶりです。早速ですが、新刊では、東映配給の2作品が本のタイトルにくっついてますが、東映とは何か特別な関係があるんですか?

細野(以下略) 東映の株価って異常に低いんですよね。映画関連以外でも、日本株全体で見ていった時に、実は東映のような銘柄がたくさんある。そんな、日本市場の象徴的な事例として紹介しています。

――なるほど。株価が安すぎる会社の代表的な例ということですね。

そもそも東映って、そんなに強いコンテンツがあるわけじゃないですよね。

――確かに。スタジオジブリのように100億円以上稼ぐ作品があるわけじゃないし、「ドラえもん」のように毎年50億円近い興収をあげるアニメもないですね。

だけど、「仮面ライダー」や「プリキュア」シリーズは安定稼働していますよね。各作品、安定して10億円稼ぐ。それに実写でも映画も含めて「相棒」ほど継続的に続いているコンテンツはない。よく見ると、東映のコンテンツ力は侮れないんですよ。特に、継続性という意味で。だから、東映の昨年末のヒット作である「ONE PIECE」、そして「相棒」。この2本なら、あらゆる世代に対してどちらかが引っかかると思い、本のタイトルに入れました。実は映画ビジネスの仕組みは、どの業界にも通じるような教科書のようなビジネスモデルなんです。そこで、この本では、映画業界のビジネスモデルから他業種のビジネスモデルがわかるようにしています。要は、映画から経済や投資がわかるんです。そもそも映画業界のビジネスモデルは、映画業界にいる人でも把握できていないケースが意外と多いんですよね。その意味では、映画業界の人でも知らないような興行収入の仕組みなども解説しています。

――実は、震災のあった2011年って、配給各社が軒並み業績を悪化させた中で、東映だけ興収が上がったんですよね。

6月28日発売のDVD&Blu-rayがそろって オリコンランキング初登場1位になった「ONE PIECE FILM Z」
6月28日発売のDVD&Blu-rayがそろって オリコンランキング初登場1位になった「ONE PIECE FILM Z」

ボクのミッションは、日本経済にある過剰すぎる悲観論、閉塞感みたいなのを払拭し、中立的に情報が見えるようにすること。そして日本の株式市場には、異常なまま放置されている銘柄が多すぎる。そういうことをメッセージとして発して行きたいんです。この新書を読み進めてもらえれば、「ONE PIECE」や「相棒」のような象徴は、業界を問わず、読者が自分自身で簡単に見つけられるものだとわかってもらえると思います。そんな中、身近な象徴的な例で言うと、映画業界で最も現実と株価が乖離しているのが東映というわけなんです。

――このところ、東映の株価も上がってますよね。

いや、でもまだ(2013年6月時点では)定価の3割引きぐらいの状態なんですよ。黒字経営を続けているのに、株価が定価より低い異常な状況で、そんな銘柄が日本にはゴロゴロあります。しかも、ヒット作などが出ていてもほとんどの人が反応できていないわけです。つまり、世の中の映画ファンこそ、投資のチャンスに気付きやすいんです。現時点では2013年の映画の興行収入のトップは昨年末に公開された「ONE PIECE FILM Z(ワンピースフィルム ゼット)」の68億5000万円ですが、これは映画の興行収入だけで見るのではなく、本題は、この7月からなんです。なぜなら、DVDとBlu-rayの発売が6月末にあり、これが劇場公開の時と同様に、想定を超える大ヒットをすれば、さらに大きな収益につながるんです。実際に、前作の「ワンピースフィルム ストロングワールド」では、東映は業績の上方修正を発表するまでになりました。

この1年の東映株価(2013年7月11日時点)
この1年の東映株価(2013年7月11日時点)

――なるほど。映画関連では他にどんな銘柄がありますか?

スバル興業ですね。

――ええっ? あの、スバル座を経営しているスバル興業ですか?

そうです。あの日比谷の映画館、なかなかレトロな感じですよね。だけど、まあ映画興行は赤字にはなってない。

――ふむ。だけど、そんなに大儲けしている風にも見えない。

その通りです。では、このスバル興業という会社、何をしている会社だと思います?

――うーん。まったく見当もつきませんよ。

この会社のメインの事業は、道路保守とか公共事業系なんですよ。そっちの売り上げが、映画の3倍あります。

――なんと! 道路のメンテナンスですか。そうか、首都高とか、日本の道路の老朽化が問題になってますよね。

そうです。新規に着工する道路工事が廃れても、道路のメンテナンスは、むしろこれからずっと続くわけです。実に堅調なビジネスを手がけているのに、この会社は株価が定価の半額程度で推移し続けているんです。

――凄い!「スバル座の秘密」ですね。

こんな風に、国内だけでも面白い話がたくさんある。海外まで眺めると、もっとあるんですよ。

――いやあ、とても勉強になりました。今度は海外の話を是非聞かせてください。

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画像3

細野真宏氏近著
「『ONE PIECE』と『相棒』でわかる! 細野真宏の世界一わかりやすい投資講座」
文藝春秋刊
発売中/788円(税込)/新書判
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筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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