コラム:編集長コラム 映画は当たってナンボ - 第35回

2009年2月17日更新

編集長コラム 映画は当たってナンボ

第35回:アカデミー賞受賞作、いくら儲かる?

アカデミー賞の授賞式が近づいてきた(日本時間2月23日午前)。日本では、作品賞候補5本中4本が3月以降の公開、また唯一公開中の「ベンジャミン・バトン」にしても、授賞式の段階で続映中なので、「作品賞受賞作なのに公開が終了している」という機会損失は免れる。これは、映画会社にとっても、映画ファンにとってもウエルカムな状況と言える。

ところで、アカデミー賞に輝いた作品は、どの程度の興行収入が見込めるのか? 大いに気になるところだ。

そこで、昨年のアカデミー賞作品賞ノミネート5作品の成績を調べてみた。各作品のおおよその興収は下記の通り。

●興収3億円~3億5000万円
ノーカントリー」(作品賞受賞作)
フィクサー

●興収1億円~1億5000万円
ゼア・ウィル・ビー・ブラッド
JUNO
つぐない

なんと、5作品すべてが興収3億5000万円以下。うち3本が1億5000万円以下という衝撃的な低レベルの興行だったことが判明した。正直、今さらながら驚いてしまった。オスカーって、そんなに興行に結びつかない代物なのか?

いやいや、そんなはずないだろう。確かに去年は地味だった。でも、今年は違うはず。気を取り直して、今年の作品賞ノミネート5作品の試写を見てみることにした。以下、雑感と興行予想。

スターパワーで興収はダントツ
スターパワーで興収はダントツ

ベンジャミン・バトン/数奇な人生
配給:ワーナー・ブラザース 公開:2月7日(公開中)全国松竹東急系

作品賞以下主要13部門と今年最多ノミネートながら、実はあまり本命視されていない珍しい事例。「フォレスト・ガンプ」と同様のファンタジーながら、「ガンプ」に比べてパンチ力もカタルシスもやや不足気味なのが残念なところ。それでもスターパワーとツカミの分かり易さが効いており、現在の興行の勢いでは興収15~20億円が見込まれる。作品賞、あるいは主演男優賞(ブラッド・ピット)など主要部門の受賞があれば、20億円以上も行けるだろう。

フランク・ランジェラが沈黙の巨人ニクソンを熱演
フランク・ランジェラが沈黙の巨人ニクソンを熱演

フロスト×ニクソン
配給:東宝東和 公開:3月 シャンテシネほか

アメリカ史に残る汚職事件で政界を去った大統領と、その独占インタビューに自身のキャリアを賭けるTVジャーナリストの攻防という主題。メディアや広告関連の仕事をしている人たちなら最高に楽しめるであろう1本だ。ちなみに、ノミネート5作品の中で、登場人物が1人も死なない唯一の作品でもある。たたずまいは小品で、主要部門の受賞の可能性は低いが、主演男優賞(フランク・ランジェラ)あたりが転がり込めば、興行にも弾みがつくだろう。主要部門での受賞がなければ1~2億円程度にとどまるか。

ペンは主演男優(右)、ブローリンは助演男優(左)でノミネート
ペンは主演男優(右)、ブローリンは助演男優(左)でノミネート

ミルク
配給:ピックス 公開:GW シネマライズほか

サンフランシスコを拠点にゲイの解放を訴えた政治家ハーベイ・ミルクの生涯を描く力作。ゲイが主人公の作品では、05年度にオスカー最有力とされながら、作品賞を逃した「ブロークバック・マウンテン」が記憶に新しいところだが、この「ミルク」が作品賞を取るのなら、ハリウッドに新たな歴史の1ページが刻まれることになる。ショーン・ペンは相変わらずの熱演だが、ペンの熱演はこの国では「暑苦しい」と感じる人も少なくない。もっとも、オスカーの主演男優賞を取れば、その暑苦しさは「必見の熱演」に化ける。こちらも、主要部門の受賞がなければ1~2億円に終わる可能性がある。

ケイト・ウィンスレット、念願のオスカー獲得なるか?
ケイト・ウィンスレット、念願のオスカー獲得なるか? 

愛を読むひと
配給:ショウゲート 公開:6月19日 全国東宝洋画系

日本でもベストセラーとなったドイツの小説「朗読者」の映画化。監督スティーブン・ダルドリー、脚本デビッド・ヘアは「めぐりあう時間たち」でニコール・キッドマンにオスカー主演女優賞をもたらしたコンビ。そして製作にはアンソニー・ミンゲラとシドニー・ポラック(2人とも08年に本編の完成を見ずに亡くなった)。映画ファンならスタッフの名前だけで名作と想像できるし、実際、映画の出来は素晴らしい。また、ケイト・ウィンスレットはゴールデン・グローブ賞までは助演女優部門だったのに、オスカーでは主演女優に変わったのもご愛敬。こちらは全国チェーンでの公開なので、オスカーなしでも興収10億円ぐらいは計算しているはず。主要部門の、少なくとも主演女優賞の受賞が欲しいところ。

低予算ながらオスカー大本命!
低予算ながらオスカー大本命!

スラムドッグ$ミリオネア
配給:ギャガ 公開:4月 シャンテシネほか

これまでの賞レースの趨勢から、オスカーでも作品賞、監督賞、脚色賞あたりはほぼ当確と目される1本。今年のオスカーレースの大本命である。世界的人気のTV番組を元ネタに使っている点や、舞台となるインドの国家が持つ熱気もあって、もともと作品に勢いがある。従って、低予算映画ながら日本でも興収3億円程度のポテンシャルは十分にあるし、作品賞受賞で5億円、うまくすれば10億円も夢ではない。恐らく、今年の年間ベスト10的な投票では必ず上位ランクされる、あるいは、映画祭ならば「観客賞」的な支持を受ける類の作品。作品賞を受賞した暁には、配給会社は一気に勝負に出るべきだ。

以上、今年の作品賞候補群は、少なくても昨年の5本よりは興行のポテンシャルが高そうだということがお判りいただけたことと思う。また、本命の「スラムドッグ$ミリオネア」は俳優部門でのノミネートがないこともあり、主演男優賞・主演女優賞が作品賞とバラける可能性が非常に高い。それだけ、オスカー受賞の恩恵を被る作品が増えるという結果につながると思うのだが、果たしてどうなるか。

受賞作は、あと1週間で判明する。(eiga.com編集長・駒井尚文)

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筆者紹介

駒井尚文のコラム

駒井尚文(こまいなおふみ)。1962年青森県生まれ。東京外国語大学ロシヤ語学科中退。映画宣伝マンを経て、97年にガイエ(旧デジタルプラス)を設立。以後映画関連のWebサイトを製作したり、映画情報を発信したりが生業となる。98年に映画.comを立ち上げ、後に法人化。現在まで編集長を務める。

Twitter:@komainaofumi

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