翻訳劇の女王、麻実れいが語る、ブラックコメディとしての「崩壊寸前の家族」 : 若林ゆり 舞台.com

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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第43回

2016年4月26日更新

第43回:翻訳劇の女王、麻実れいが語る、ブラックコメディとしての「崩壊寸前の家族」

日本の翻訳劇にこの人あり、と言われる女優・麻実れいには、“人間力”というものを感じさせずにはおかない、ものすごいオーラがある。本人はいたって謙虚、サバサバとしてフェアで潔く、それでいておっとりとしているので「そんなことないわ」と言うかもしれないが、「こんな風に年を重ねられたらなあ」と憧れている人も多いのではないか。そんな彼女はここ最近、ヘンリック・イプセンの「海の夫人」やユージン・オニールの「夜への長い旅路」など、壊れた家族の中で精神のバランスを崩す母親役が続いている。そして5月開幕の「8月の家族たち August:Osage County」で演じるバイオレットもまたしかり、なのだ。

「そうなの、ずーっと続いているんですよ。崩壊した家族で薬物中毒という役が、2作続いたかと思ったらまたですもの(笑)。しかも今回のバイオレットはがんを患っていて、薬物中毒で、認知症で脳障害を起こしているというんです。でも、いままでの作品とはまったく違うのよ。そういう人が母親という家族のお話ならさぞや暗いお話かと思うと、必ずしもそうではなくてね。現実の家庭にあり得るいろいろな細かいことが、自然なドラマの中でちゃんと繰り広げられている。だからお客様は、とくに女性のお客様は家族についてきっと感じられるところが多いと思うんです」

撮影:若林ゆり 撮影:若林ゆり

戯曲はアメリカのトレイシー・レッツが2007年に発表し、ピューリッツァー賞やトニー賞などを受賞した、アメリカの家族をめぐる辛辣なブラックコメディ。メリル・ストリープジュリア・ロバーツらの出演で映画化もされた傑作だ。父親の失踪を機にオクラホマの実家に集まった三姉妹とその伴侶、親戚たちが、がんと薬物中毒でボロボロになった母親と大激突。激しく愛憎をぶつけ合う家族たちのやりとりは、かなりヘビーでヒリヒリと痛く、その辛辣さは容赦なし。しかし今回、上映台本と演出を手がけるケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)はこれを「ちゃんと笑えるコメディ」として打ち出したいとしている。

「これはシリアスに演じようと思えば、最初から最後まで笑いなんかひとつも起こさずに上演できる台本なんです。でもKERAさんはアメリカで上演されたときの様子をご覧になって、そこでは絶え間なく笑いが起きていたそうなんですね。だから日本でも長い上演時間で、途絶えないように笑いを呼びたいとおっしゃって。でも私たち役者はコメディとして演じたり、笑わせようと狙ったりしちゃいけないのね。あくまでも真面目にやることが笑いを呼ばないと」

KERAの手による上演台本には、確かに翻訳劇にありがちな、感覚的にわかりづらく隔靴掻痒な部分が不思議と感じられない。稽古場でも、台本を読んだだけではわからないような笑いがどんどん生まれているのだそう。

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「私はいつもコメディとは離れたところでやっていますので、つい普通に動いてしまうんです。そうするとKERAさんが『こういうふうに動いてみて』とおっしゃるんですけれど、『どうしてそんなふうに?』と思うこともあるんですね。でも、こっちが迷ったときには『こんな感じ』とやって見せてくださるんです。それが、すっごくいい声だしお上手なの!(笑) だから全部いただきたいと思うんですけれど、そうもいかなくて。それにね、やってみながら、ちょっと沈んでるなと思うところにセリフを足すんですよ。それが面白くて。あるセリフを足されたときには全員が稽古場で爆笑しました(笑)。いいところを突くんですよねえ」

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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