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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第38回

2015年11月11日更新

第38回:天才演出家で監督のジュリー・テイモアが、自身のシェイクスピア舞台を映画に!

ブロードウェイで最も大きな成功を収め、いまだに人気が衰える気配がまるでないミュージカルといえば「ライオンキング」。成功のカギは、誰もがアッと驚くほど大胆で独創的な演出にあった。その演出を手がけたのが、天才演出家にして映画監督のジュリー・テイモアだ。そのテイモアが、ニューヨークのブルックリンにある小劇場、Theater For A New Audience(TFANA)でシェイクスピアの「夏の夜の夢」を上演したのは2014年のこと。もちろんチケットは瞬殺で完売、大評判をとって4カ月の公演を終えた。しかし、見逃したからと悔しがるのはまだ早い。この公演がテイモア自身のメガホンで映画として完成し、日本への上陸を果たしたのだから!

「実はこの映画は、まるでアクシデントのように突然、降って湧いた話なの」と、テイモアは語りだす。

画像1 撮影:若林ゆり

「最初は映画として撮るつもりなんてまったくなかった。そのとき、別の映画の企画をオファーしてくれたプロデューサーに『いま私が演出した舞台が上演中だから見に来て』と言ったら見てくれて。すぐに『これこそ映画にすべきだ』っていう話になったの。そのときはもう、千秋楽まであと2週間という時期だったから大慌て。5日間で準備を全部整え、1週間ですべての撮影を終えたのよ」

しかもこの映画は上演している舞台をただ撮影しただけというものではない。映画的な手法を駆使した「映画と舞台のハイブリッド」なのだ。

「撮影監督をしたロドリゴ・プリエトは『フリーダ』で組んだ才能あふれるカメラマンだけれど、舞台の撮影はしたことがなかった。ほかに演劇の撮影に長けている人たちも3人、入ってもらったわ。夜の公演が始まる前の昼間の時間帯に、観客にも入ってもらって撮影のための公演を4回やってね。映画と同じように途中で止めて、カメラに張りついて演出をしながら撮ったの。カメラが舞台上に上がって俳優のすぐそばに寄ったり、俯瞰で撮ったり、いろんなアングルで撮ったわ。俳優に『もっと演技を抑えて』と言ってクローズアップを撮ったし、ささやくようにセリフを言ってもらったところもある。映画的な演出ね。そうして撮った80時間分のフッテージから、ベストなところを選んで編集したわけ。編集には10週間たっぷりかけたわ。だから映画の観客は、舞台の観客よりいい席でこの作品を鑑賞できるってことになる。たとえばティターニアが長いセリフをしゃべっているシーンでは、それを聞いているオーベロンの表情をアップで映している。これは客席にいたら見えないところだけど、私のお気に入りのカットよ」

今回の来日で、テイモアは劇団四季による日本版「ライオンキング」を15年ぶりに観劇。そこで行われた講演会では日本やインドネシアなどの伝統芸能から受けた影響を語り、「舞台を創造するときまず初めに考えるのはデザインのコンセプトで、最も象徴的なイメージよ。『ライオンキング』の場合はサークル(円)だった」と、創作の秘密を明かしてくれた。では「夏の夜の夢」の場合は、まずどんなイメージが浮かんだのだろう?

画像2 (c)2014 Loh, Inc.

「ベッドよ。この物語はすべて夢から始まっていて、その夢を生みだしているベッドからシーツが広がり、世界が広がっていく。シーツは物語の展開の中で空になりハンモックになり、ウエディングドレスにもウエディングテントにも姿を変える。労働者たちはベッドの一部を椅子にしたり、道具にしたりする。そういうすべてが、観客を夢の世界へと誘う役割を果たすのよ。それこそが演劇の力だと思う」

このほかにも場面転換やキャラクターの表現には、テイモアらしい独創性が満ちあふれている。ロバに変身したボトムがロバのマスク(仮面)を操作していたり(演じているのは「ライオンキング」初演のティモン役、マックス・カセラ)、劇場の空間を縦にめいっぱい、吊りもので高く、セリで低いところまで使ったり。布地を活かして幻想性を出すのもお手のもの。しかし何よりユニークなのは、森の精として18人の子どもたちを登場させ、いろいろな役割を担わせているところだ。

「この芝居の難しさは、森の中がいろんな場所に転じていかなければいけないという点だった。18人の子供たちを使うことでいろんなことが可能になったわ。実は最初はね、100人の子どもたちを裸にして泥まみれにして、『蠅の王』みたいな感じでワイルドに使いたかったの(笑)。だって妖精に子どもを使うと羽根をつけたりして甘くなってしまうでしょう。そうではなく、髪に枝がはさまったりしている子どもたちが駆け回り、客席を威嚇するような感じにしたかった。まあそれはできなかったけど、あの子たちのエネルギーはこの作品にとって最重要、必要不可欠なものになったわ。彼らは木になるし森になり、バリアにもなる。それはキャラクターの内面を表すメタファーでもあるのよ」

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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