太宰治の未完絶筆コメディが舞台で完成、小池栄子が怪力したたか美女に扮して魅せる! : 若林ゆり 舞台.com

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コラム:若林ゆり 舞台.com - 第34回

2015年9月11日更新

第34回:太宰治の未完絶筆コメディが舞台で完成、小池栄子が怪力したたか美女に扮して魅せる!

太宰治はこれから死のうというときに、なぜこんなにも愉快な小説を書いていたのだろう。それを途中で放り出していくなんて、ひどいなあ。太宰による未完の遺作「グッド・バイ」を読んだとき、心からそう思った。根暗な太宰がシニカルなユーモアを発揮した冒頭部分だけで、プツリと絶たれてしまった楽しみ。だがいま、夢だった「その先」が舞台で観られる。稀代のストーリーテラー、ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が脚本・演出を手がけた「グッドバイ」が、KERA自身のプロデュース・ユニット、KERA・MAPの第6弾として幕を開けたのだ。

この小説のなかでも最高に魅力的な存在が、キヌ子だ。太宰を思わせるモテ男の田島は、何十人もいる愛人と手を切って妻子と新生活を始めたい。愛人たちの前で彼の妻役を演じ、その手伝いをすることになるのがキヌ子である。この女がやたらと面白い。モンペに長ぐつというドロドロの姿で闇屋稼業をしている彼女は、着飾って黙っていれば絶世の美女。ただし鴉声と言われる悪声で口が悪く、やせているのに十貫は楽に背負うという怪力の持ち主であり、無類の食いしん坊で大食いなのだ。このキヌ子を演じるのが、近年とくに演技のうまさが知れ渡りつつある小池栄子。見るのが待ちきれないっと思わせてくれる絶妙なキャスティングではないか!

撮影:若林ゆり 撮影:若林ゆり

当の小池を稽古中に直撃すると「でも私が読んだときは、自分じゃないんじゃないかなって思ったんですよ。『えー、怪力で大食いでって、私まんまじゃん』(笑)。これはもっと線の細い綺麗な女性がやって、イメージ覆すほうが面白いんじゃないかなあって思ったんです」と笑う。しかし、小池が演じる説得力は十分すぎるし、華奢な人でイメージを覆すだろうというイメージをまた覆すという面白さもある。「すごい美人」という条件も軽くクリアできるだろう。

「そこはね、早くみんな忘れてくれないかなと思って(笑)。まあすごい美人は世の中にいっぱいいるから、そうじゃない愛嬌であったり、この女性のチャーミングな魅力が出せたらいいなと思っています。あんまりガサツにいきすぎちゃうと、KERAさんに『なんか恐いな』って言われてしまって。この人の内に持っている愛嬌というものを練りこんでいかないとダメかなと思っているんです」

太宰が途中までしか書かなかった物語を、KERAがどう紡いでいくのか?

「KERAさんご自身が、自分のお芝居の中でもいままでにないくらいストレートで明るい作品になるっておっしゃっていて。ラブコメなんです。お客さまは『田島とキヌ子、くっついちゃえばいいのになー』って思いながら見ることになると思います。原作にはない展開が面白いんですよね。グッドバイをいっぱい告げて歩いてきた男が、水野美紀さん演じる奥様にグッドバイされてしまうという話がけっこう初めのほうにもう出てきて。そうすると、愛人たちと手を切る必要がなくなって目的を失った田島が、女たちとどう関わっていくのか。お手伝いをしていたキヌ子の感情にどういう変化が芽生えるのかとか。取り引きして、お金をもらって美味しいものをたらふく食べさせてもらってという、ただ単に契約上の関係だった2人に、物語が進むにつれてラブコメらしい恋心が芽生えたりするんです」

撮影:加藤孝 撮影:加藤孝

太宰の短い文章のなかでも、思わず吹き出してしまうようなかけ合いのセリフが印象的だ。キヌ子の口から「おやおや、恐れいり豆」なんてギャグが飛び出したりもする。

「田島は『何人愛人がいるんだい?』って聞かれて『20と数人』って答えている。『気がついたらそんなに膨れ上がっていて僕はいったいどうしたらいいんだ』って苦悩しているのを、キヌ子は『は? あんたバカじゃないの!?』って(笑)。そのセリフひとつ取っても面白いですよね。それに関係性とかパワーバランスが場面場面ですごく変化するのが『グッドバイ』の面白いところだと思うんです。KERAさんもこの時代、昭和23年を意識してセリフを書いていらして、いまどきそんな説明っぽい言い方しないだろうってセリフがいっぱい出てくるんですけど、その世界観をみんなで作れたら、違和感なく見られると思います。スピード感やテンポは早いですしね」

キヌ子というキャラクターも深められているのだろうか。

「どうやら親に捨てられた過去があるみたいで、それを思わせるセリフがあるんですけど、苦労をあんまり表に出さない。担ぎ屋という闇商売をしながら自立して生活しているキヌ子はたくましい女性だなと思いますね。KERAさんは『そのたくましさっていうのは小池に共通してるよね』と言ってくださっています(笑)」

[筆者紹介]

若林ゆり

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

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