コラム:若林ゆり 舞台.com - 第10回

2014年7月8日更新

若林ゆり 舞台.com

第10回:「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」で天才詐欺師を演じる松岡充はサービス精神の塊だ!

これが実話だなんて信じられない。スティーブン・スピルバーグ監督の「キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン」を見たとき、あまりのことに仰天したものだ。パイロットに医者、弁護士になりすまして大金をちょろまかす!? こんな大ボラがまかり通ったなんて! それもこれも、映画ではレオナルド・ディカプリオが演じた、さびしがり屋でソノ気になりやすい詐欺師フランク・アパグネイル・Jr.が魅力的だったからこそ起こり得たこと。ブロードウェイでミュージカル化されたこの作品の日本版で稀代の詐欺師に扮するのは、ミュージシャンとして、そして俳優としても輝きを発揮する松岡充だ。映画版のディカプリオに対して、ライバル意識はもっているのだろうか?

「好きな俳優さんではありますから、表現者としてすごいなっていうリスペクトがありますね。ハリウッドスターでもちろん距離はあるけど、表現者というところでは勝手ながら近いものを感じています。だから参考にさせてもらったりすると思います。ただ、彼にしか出し得ないものというのはあるから、そこは対抗するんじゃなくて、僕にしか出せないものを目指したいなと思いますね」

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ちなみに松岡は「タイタニック」というブロードウェイ・ミュージカルで主演しているが、これはディカプリオ主演のあの映画とはまるで視点が違う作品で、主役は船の設計士だった。当時はよく「ディカプリオの役やるんだね」と言われて辟易したとか。とはいえ「好きな俳優」だけあって、よく見ている。

「彼は「華麗なるギャツビー」も素晴らしかったし、シリアスな作品にも挑戦していますけど、彼の役どころには何かしら、どこかでつながっている感じがしますよね。最近の「ウルフ・オブ・ウォールストリート」で演じた役にも似たものを感じますし。ディカプリオが演じているから、といえば簡単なんですけど、そうじゃないところで。役が違う、監督が違う、国が違うなかでも、どこか連続ものかスピンオフを見ているような感覚を映画ファンに与えるところが、彼の持ち味なのかなと思います。華やかなところと孤独なところ、両方持ち得ているフランク・アバグネイル・Jr.は、ディカプリオだから適役だったと思います」

松岡充もディカプリオに負けないくらい、適役かもしれない。そう思わされたのは、この舞台の製作発表のとき。サービス精神旺盛な彼は会見の場で「父は東宝の大株主なので、コネと言われたらシャクだからがんばらないと」だの、「英語の教員免許を持っている」だのと華麗な大ボラを吹き、記者たちを笑わせたのだ。周りを煙に巻くトリックスターというキャラクターの魅力、作品の面白さをこんなふうに伝えるなんてタダ者じゃない、と大いに感心させられたものだ。

「あれは、当日の朝に思いついたんですよ。どうせだったら集まってくれた記者の方々に楽しんでもらいたくて。記事にするかどうかは別として(笑)。本気にされた方もいらっしゃったみたいですが(笑)、『お、おもしろいじゃん』と思っていただけたらいいなと。嘘つきと言われるのは嫌なんですけど、関西出身なので楽しんでもらうための冗談はいつも考えています」

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この物語の面白さは、フランクの綱渡り的な詐欺そのものともうひとつ、彼を追うFBI捜査官、カール・ハンラティとの関係性にある。2人のラブストーリーと言ってもいいものなのだ。

「フランクはとにかく家族、とくに父親からの愛情というものを、ハンラティに求めたんだと思うんです。自分のことを追いかけ回して、心配してくれる存在がほしかったんですよね。だから逃げ切れなかったんじゃないかと思うんですよ。ギリギリのところまで待って、すんでのところで逃げる。それは子どものころに鬼ごっこをやって、楽しかったからじゃないかな。大人になってからも、誰かが僕のことを気にしてくれている、追いかけてくれているということが、彼にとって生きる原動力になった。ハンラティは逆で、誰かを追いかけていることに自分の存在意義を感じている。そこがうまく合致したんだなと。たまたま犯罪者と捜査官という仲になったんだけど、それが成立したからこそ2人の間に信頼が生まれて、その後の2人の関係性にもつながっていく。そこが面白いし、リアリティがあるなと思いますね」

筆者紹介

若林ゆりのコラム

若林ゆり(わかばやし・ゆり)。映画ジャーナリスト。タランティーノとはマブダチ。「ブラピ」の通称を発明した張本人でもある。「BRUTUS」「GINZA」「ぴあ」等で執筆中。

Twitter:@qtyuriwaka

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